Eno.356 舟渡しのスティラムス

【***】帰還 友の存在

~ ~ ~ ・ ~ ~ ~

「わぁ…その様な出来事があったんですか!…あなたも、不思議な体験をしたんですね。」

吾輩が経験した出来事を一通り話すと、我が友は吾輩と似た色の瞳を輝かせる。
“色の見えない世界”へと迷い込んだ事があるという彼女もまた、以前奇妙な体験をした身なのだ。
奇妙な体験をした者同士であれば、有意義な話が出来るであろうと…
海辺が見える場所へと出掛け…こうしてあの島へと迷い込んだ事や、
島で出会った者達の事、島での生活の事について語らうのであった。

「唐突な事だった上に過酷な環境での生活…きっと大変な思いもしたのでしょう。」
「けれど…その大変な思い以上に、素敵な気持ちを一杯感じたんでしょうね。」
「この話をするあなたの顔を見て、何となく、そう思うんですっ!」

彼女の言葉に、吾輩は大きく頷いた。
過酷な生活でこそあったが、皆で助け合いながら過ごし…
戸惑いつつも、出来る事から少しずつ手を付けて行ったり。
崩れる天候による逆境に負けず、皆で支え合ったり。
時には和やかな一時、戯れの一時を過ごしたり。
不可思議な出来事を通じて得たものは…
一つ一つが、吾輩の魂にとって大きな影響を与えたと。
あの島で出会い、共に過ごした者達も、また大切な友だと吾輩は語った。

「…皆さん素敵な方々だったのですね。もし再開できる機会があるのなら…いずれ会ってみたいですね。」
「…おや、その方が…あなたの話に出てきた召喚獣の方ですか?」

彼女が吾輩の傍らに居る召喚獣アヒルを見やる。
あぁ、そうだ。この者こそが。
あの島の岩場で出会い、召喚獣として吾輩と契約を果たした…
迅翼の凶鳥・シュトゥルム・アングライファ”であると。
この者は島で生活する吾輩を度々見守ってくれていたのだと。
他の者の召喚獣とも熱き競技にて、熱い戦いを繰り広げたりしてくれたのだと。
吾輩は、自慢に彼女に語るのであった。

「ふふふっ、この方との出会いも、あなたにとって大きな力になったんですね!」
「…そっか。簡単には言葉に言い表せないけれど…」
「掛け替えのない大きな気持ちが…その思い出を通じてあなたの心にも宿ったんだ。」
「言葉にしようとすると難しいんですけれど…」
「なんだか、以前とは違う雰囲気になったな…って思うんです。勿論、良い意味でですよ?」

とても心に残る経験が出来たと、吾輩は再び頷く。
しかし、吾輩があの島に来る前に見た“光”の正体は何だったのであろうか。
今、隣で話している彼女も、奇妙な体験の際には“光”を見たと言っていたか…。
まぁ、この事については今後考えて行くとしよう。

語り合う中、優しく吹く潮風が頬を撫でる。
その時にふと、広がる青空を眺める。目線の先に見える海原を眺める。
吾輩は再びあの島の事を思い浮かべようとした——————

「あれあれ~っ!?こんな所に居た~!なになに~?ちょっとイイ感じのムードだったりぃ~?」
「あははは~っ。そういう感じとは違うんじゃないかなぁ~。だけど何だか楽しそうだねぇ。」

————2名程の声が、この場へと鳴り響いた。
この者達もまた、元より居た地での…吾輩の友である者達だ。

「なんだか楽しそうな感じじゃーん!アタシ達にもお話聞かせて聞かせて~!」
「うんうん、折角だしお茶会でもしようっかぁ~。あ、海辺だしバーベキューでもいいねぇ~」

やれやれ、騒がしくなってしまったか。どこでこの事を知ったのやら。
…だが、この様な一時を過ごす事は悪くない。
友という存在のかけがえの無さは、あの島の経験を持ってより強く知ったからな。
吾輩は2人の事も招き入れながら、歓談の時を過ごすのであった。

—————再びあの島の事を思い浮かべながら。
—————あの島で過ごした者達が…形はどうであれ、それぞれ良き道を進める様にと願いながら。