Eno.297 ハイウェイマン

Cheat death

ハワイに寄港してしばらく後、シマで確保した浮き輪を片手にいよいよ元の世界に戻る。

結論からすると、浮き輪は要らなかった。
橋のたもとで目が醒める……が。

────────ディエ

懐かしい声を耳にして、薄く目を開ける。

「────ディディエ」



目はまだぼやけるが、見間違える事は無い。
散々まだ生きるつもりではいたが、ままならないものだ。

「────ベル。
 待たせたな。五人とも生き残って……」



一人で行くのは寂しかったろう、と繋げようとした。
せめて再会できたことは、二人でささやかに喜ぼうと思った────が。

「皆、ディディエ気付いたよ!
 喋れるし傷は酷くは無さそう!」



────────あれ?
途端に周りが騒がしくなった。皆が駆け寄って来る。

「おいおい、まさかあの戦いで皆死んで────」


「ない!みんな生きてる!ディディエも!」



目の前のベルも含めて、という事なんだろう。

「だんだん呑み込めてきたけど……ベルのあれからと、何でここにいるのかは聞く必要がありそうだな。」



そこから、約4年の空白を一生懸命埋めようとベルは話し始めた。
会戦後は都市連合の兵も被害が多く捕虜の管理の手が足りず、傷の深かったベルは早々に傭兵をしていた流浪の一団に捕虜として下げ渡されたこと。
そこで治療が受けられた事と、先生から同じ『不死の呪文』を聞いていた事。

元気になってからは、その流浪の一団に加わって各地を回っていた事。
治療を受けた際に性別は誤魔化しようがなくなった事。
エチフィルドに手紙は出したのに、誰も帰って来てない事だけしか分からなかった事。

「ここからは、割と最近の話になるんだけど。」



また北部の都市連合と傭兵契約を結んであちこちうろうろして、この近くまで来た事。
そのタイミングで、西国と都市同盟がまた争いだした事。
自分達と傭兵団の戦いの、最初の挨拶から斥候が見ていた事。

傭兵団の頭が、苦し紛れに『賊に偽装した西国兵に襲われている』と助けを求めた事と、
普通の賊では傭兵に勝つなんてまず無い事……そして横槍を入れることにした事。

「そう言えば、俺を討ち取った先頭に居た人がリーダーでいいのか?あの人は?」



ベルが斜め下の地面を指さす。

「そこでさっきから土下寝してる



「それははよ言え!?
 お兄さん顔上げてください。
 大きくこじれずに終わったわけだし、俺たちにとってもベルの命の恩人ですし。」



つんのめった自分の馬、落水した俺、そして周囲の面々……見知った顔だらけなのをベルが気付いて、こっちもダミアンが真っ先にベルに気付いて、お互いがストップをかけだしたらしい。
村が焼かれてから今までの経緯を話してくれた地元の人達がいたのも幸いした。

新たな知己を得、止まった時間はまた動きだそうとしていた。