Eno.181 潮彩のリューカ

陽はまた昇る

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ヒュマモン監獄にわたしが収監されてから、1年近く経った頃。
わたしは看守たちに呼び出され、あるイベントに出てみてはどうかという誘いを受けた。

それは『ヒュマモン監獄デスマッチ』。
優勝者はいかなる重罪囚であろうと恩赦が褒章となる、囚人専用のトーナメントだ。
人間・ヒュマモンを問わず、この大会を囚人生活の娯楽としているものが多いという。

ただし出場の条件として、外部の者によるパートナー希望者が必要らしい。
テイマーとなる人間は、外の世界でのお目付け役を兼ねられることが条件となっている。
話によると、どうやらその新しいパートナーが、わたしの実力を買いたいのだという。

どんな人物かはわからなかったけれど、きっとわたしにふさわしく、素敵な人に違いない……
そんな夢を呑気に見ながら、わたしはその人の元へと案内された。

「初めまして、だなお嬢さん」


そこにいたのは、中肉中背のナイスミドルであった。顔は……昔なら良い男だったかも、てところかしら。

「君がリヴィラナか。事情は聴いている。
 俺は国際警察の『セドリック・ベアトリクス』だ。よろしく頼む」

「こ、こくさいけいさつぅ!?」

まさかの国際警察直々のご来訪に目を丸くしたが、
看守が隣で「挨拶!!」と鞭を鳴らし、わたしは気を取り直した。

「は、はじめまして……」

「それにしても、わたしが次に組む相棒がおじさまだなんて。
 どうせなら白馬に乗った王子様がよかったわ」

「そう言わさんな、お嬢さん。
 お前さんのような子は、まだ若人にゃ手が焼けるんだ」

「じゃ、じゃじゃ馬扱いのつもり!?」

「お嬢さんを完全に信用してない訳でもないが、今後しばらくはそうなっちまうなぁ」


セドリックは苦笑して、話を続ける。

「もしお嬢さんがトーナメントで優勝して、この檻から出られたらの話になるんだが
 ――俺たちから頼みがある」

「お嬢さんが傷つけた人と同じくらいの――できれば、その倍以上の。
 人間とヒュマモンたちを救ってほしい」

「どうだ。俺達と一緒に、人助けの道を歩んでみないか?」


セドリックは握手しようと、わたしに向かって自ら手を差し出した。

壊す力と、救う力。
船にいる数多の船客を襲ったことも、孤島で子どもたちを助けたことも。
どちらも、他でもないわたしがしたことだ。
そして、わたしがこれからすべきことは……

わたしはセドリックの手を傷つけないように気を付けながら、
ぴったり閉じた爪を彼の手に重ねた。

「……わかったわ。よろしくね、おじさま!」


セドリックと交わした握手は、とても力強かった。