Eno.328 天使グッドラック

これからの幸福

幸運の天使が嵐で行方不明になって数週間後、
奇跡的に生還を果たした(しかもお土産まで持っていた)ニュースは、最初こそ大々的に取り上げられたものの、2、3日もすればすぐ世間の興味から離れていった。

なぜなら、行方不明先で天使の翼とヘイローをなくし、彼は天使ではなくなったからだ。
ビッグマウスゴッド事務所は会見を開き、幸運の天使の座は空席とする旨を発表した。

数少なかった信者は悲しんでいたが、
「でも幸運だったから好きだったわけじゃない。
 明るく元気でいてくれればいい」
と、新たな門出を祝福する声もSNS上では見られた。

田由沼努はその間、関係各所にひたすら謝罪して回り、ようやく落ち着いた頃に、天使寮から荷物を持って出た。

「もう行っちゃうの〜。
 グッドラックがいなくなると寂しいよ〜」


「怠惰の天使ダルイネル。
 別に、今生の別れってわけじゃないから、
 大丈夫だぜ!
 今まで俺と仲良くしてくれてありがとな。
 また72時間惰眠配信にコメントするぜ」


「おれのヘンテコな寝言しかないのに、
 奇特な友人だよ君は〜。
 ……学校に行くんだっけ」


「家の仕事があるから、定時制だけどな!
 だけど、大学にも行きたいんだ。農学部!」


「めちゃくちゃ理系じゃん〜。
 頑張って勉強しなよ〜」



かくして、天使の友人がちょっとだけ多い、
普通の家族想いで幸運な男は。
ちょっぴり妹にかまいすぎてウザがられたり、
祖父と共に過ごす時間を大切にしながら、
新たな日々を楽しく穏やかに過ごしていくのだった。

「俺は幸福だ!
 家族もいれば、健康も仕事も
 学べる場所もある。それに何より……」



あの無人島で友と分け合ったような、
幸運なだけじゃない、素晴らしい人生のために。

「これからも頑張りたいと思える、
 思い出がある!
 ありがとう、皆!」



やがて、進学しても、そこで出会った運命の人と家族になっても、田んぼと実家を任されても。
彼の部屋にはいつも、ヒトデの形のクッションと、思い出の写真と金貨が飾られていた。



















〜余談〜

男は嵐が来る度に、家族にそれはそれは神妙に語ったという……。

「たとえばこんな嵐の日……。
 どんなに気になったとしてもだ」


「田んぼや川の様子を見に行ってはいけないぜ!!!!!」



        〜完〜