Eno.531 須藤京也

ただいま

『君、大丈夫か!?』

目が覚めると最初に聞こえたのは大人の声。
少年は知らない海岸にいた。

『どこか痛いところは!?』

痛いところはどこにもない。
どうやら無事に帰れたようだ。

少年は黙って立ち上がる。

『歩ける?』

知らない男の人と、女の人。

キョロキョロと一番探している人物を探す。

『キョウヤ!!』

聞きなれた声に思わず大人たちを振り切って、駆け出す。

「母ちゃん!!」
『バカ!どこにいたのよ!』

ぎゅっと、固く抱きしめられる。
いつも泣かない母親は泣いていた。

「ごめん、母ちゃんオレ、宝物、探しに行ってたんだ。宝物沢山見つけたら母ちゃんに楽させてやれると思ってさ。」

少年は申し訳なさそうに母親に全てを打ち明ける。

『そんなものいらないわよバカ息子。ママの宝物はアンタなのよ。』

母親は優しくそう言う。

少年は、久しぶりに母親の前で泣いた。