Eno.562 ナナシ

2次会開始、そして僕の門出

ケモノっぽい種族もいる世界のハワイ行きの要望はすんなりかなった。
あの海の性質上、帰りたい場所、行きたい場所を思い浮かべればどこにでも行けるため二次会と称してこの海を指定する生存者も多いとのことだった。
 本来の入国処理には、パスポート、積荷の検疫、通貨交換といった手続きが必要らしいけどこの国では、
別の世界からきた渡航者は免除かつ宿泊施設と次の行先に関する手続きまでしてくれているという。
元の世界を希望する面々は手続き所に向かい、2次会参加組は宿泊施設に島の手見上げやら加工品を忍ばせ歩いていく。
 ここは繁華街かな、上司たちがたまに出かけてべろんべろんな状態で区画の入口に捨てられているのを時々見ていたから、仕掛けられないように十分警戒して楽しもうかな。

まずは風呂だ!

木造中型クルーザーで乗りつけた奇妙な団体さんはちょっとした話題になり、
地元の人々が僕が作った船を見ようと港に足を運び、テレビってやつのニュースでも取り上げられる始末。



入国管理局-

「えっと、絶海領域のエンシェントドラゴン島からで合ってますよね。船の所有、造船者はあなたで」

「はい。」



「あっ、この用紙に署名してもらいたいんですが。」

名前か…、島ではナナシさんで通っていたけどいざ手続きとなると

「実は、昔の名前は捨てました。島のみんなからはナナシさんと呼ばれてましたけど、それで通りますか。」


「…、トウキョウ方面だと厳しいですね。まぁ、この海なら大丈夫ですが…。」

しばらくの静寂、
ここに至るまでの経緯を伝えることが一番いいだろうと判断した、相棒の故郷を目指す旅の途中であることを。

「なるほど、そうですね…七瀬 充さんでどうですか?充は"みたされる"という意味でして。」

  みたされる-

何もかも捨ててきた僕が次に行くにはふさわしい名前だ。

 さて、みんながまつホテルの一室で門出の祝杯を上げよう。

飲みすぎはしゃぎすぎには注意してだけどね。