Eno.184 アメトリン

このシマにくるまでのこと:記録0

実は、あまり覚えていない。
この姿になったのも最近のことで、昔はもっと…シュッとしてて、背が高かった気がする。
何か仕事もしていた気がするけれど、もう忘れてしまった。
鮮明に覚えているのは、寒い雪の日に、冷たい海に突き落とされた記憶。

どんどん目の前が暗くなっていったところで、「門」を潜った。
「門」の先は色んな人やモノがいる世界で、姓名判断師や詐欺師や盗賊や、研究者みたいな人とたくさん話した。

おれと同じように「門」から来た人もたくさんいたから話したけど、あの時のおれはちょっと引っ込み思案だったから、上手く話せなかったかもしれない。

あの世界では、どんどんおれの姿も記憶も変わっていったけど目の色だけはそのまま残った。

やがて閉まっていた「門」が開いて、どこかへ行けるようになったけど、おれは元の世界には帰れない気がしてた。

多分、元の世界はおれにとってつらい場所だったんだと心でわかってたんだと思う。

だから、「門」をくぐる時にお願いをした。

どんなに大変でも構わないから楽しい世界へ連れて行ってください。

「門」の中は真っ暗だったけど、全然怖くはなかった。