RECORD

Eno.34 シャルティオの記録

【0-14 そして火花は】


【0-14 そして火花は】

  ◇

 5月のはじめ頃のこと。
 ついに局面は動き出す。

「ルイシャの街が落ちました!」

 その日、王宮に報告がひとつ。

 ルイシャの街。シエンル王国と魔導王国の拠点にある街。
 帝国が攻めてくるならこの街だろうと
 予測されていたところ。
 無論、手厚く守っていたはずなのだけれど。

「そして……つい先刻、
 ルイシャの民へ“覇王”より宣告がされたのですが」

 報告をしているのはボロボロの兵士。
 ルイシャの街に配属された生き残りである。
 彼は、語る。

「『──これより、帝政アルドフェックは
 アンディルーヴ魔導王国へ侵攻を開始する』と」


 始まった、始まってしまった。
 それは、いつか来る戦争。
 雪が溶けて春になったら、きっと帝国は動き出す──。

 始まって、しまった。

「…………そう」

 女王の顔は、常になく真剣だ。

「……ただちに反撃の準備をしなさい。
 ルイシャの街はくれてやるわ、
 でも他の主要な街は護り切る!」




 その戦争は、後にこう呼ばれることになる。
 “覇王”の野心の火花から始まり、数多の命の火花が散った、
 北大陸を巻き込む大規模な戦──
 火花大戦と。

 おやすみの時間は終わった。
 怯えてないで、前を見るべきだ。

  ◇

「さて……と。俺は“仕事”をしなくちゃならないんだ。
 シャルはキィルと一緒に、城で良い子にしていてね」


 その日のうちに、フェンドリーゼが旅立ちの準備を始めた。

 戻ってきてまだそこまで経っていないのに、
 またすぐに行ってしまうの?
 不安そうなシャルティオの頭をフェンドリーゼが撫でて、
 小さな身体をぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫、大丈夫だからねシャルティオ。
 俺が全て解決するから、かわいいシャルはお城で待っててね」
「……僕も、兄さんと一緒に行っちゃ駄目なの。
 僕じゃ、弱いから不安?」
「……シャルは強いよ、充分に。
 自分を卑下しないで。
 シャルの強さは、誇っても良いぐらいだよ」

 でも、と宝石のオッドアイが伏せられた。

「……この仕事は、俺じゃないと駄目なんだ。
 偉大なる母上でも無理、俺しか出来ないことなんだ。
 だから、俺ひとりで行くんだよ」
「……僕は、ずっと一緒に居たいのに」
「俺もだよ、かわいいシャル。
 でも戦時中に我儘は言えないぜ?」

 そんな訳で、と彼は城の扉を出て行く。

「こんな状況だから陸路は封鎖されるだろ。
 俺は海路を使ってセラン王国に行くよ。
 またね、元気でね、シャル、キィル」
「……兄さんも、またね」
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」

 大好きな兄を、見送った。