RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

EP9

◆出来事


「…………」




……やっば………



──武器改定待ち時間。
けれど、開けたとしてもアリーナにはいかず、どちらにせよこのまま寝てしまおうと思っている。
だって健全な肉体には睡眠が欠かせないことだろう。

だから自室に戻った。海の向こうから明かりが差し込んできている。
さらに天体たちは浮かんでるんだろうか。星の輝きが、深く濃い、群青をさらに煮詰めたような、そんな青が揺れる波間に落っこちて。
沈んで、浮かんで、まるで踊るようなことを繰り返していた。
その景色に目を細めてから、カーテンを閉めた。真っ暗な部屋に明かりのスイッチを押す。
パッと輝くは人工的白灯。その明かりの眩しさに落ち着く。
自然というものに未だなれない。自然というものに未だ飽きない。
もっと潔癖の都市に暮らしているから、フラウィウスの日々は刺激が相変わらず多い。
そしてそれに慣れるにはまだ日数が立っていなかった。

さて。

青年は窓際に置かれている椅子に腰掛けた。
少し手を伸ばして、ぐっと伸びをする。
パッと手を離せば、何となく、体の中でオフにスイッチが傾くような気がしていた。
それから。誰にも見られていないのに、誰にも見られないように、そおっも と懐から一冊の本を取り出すか。
貰い物。雑貨屋の店員からの。
青年はわりかし、本を読むのは好きな方だった。電子パネルで指先ぴぴぴ。
横にスワイプ、ページをめくる。
文化は消費される者であり、もしも電子データが破産や型違いによる接続不可に陥ったとしても、図書館庫から再び最適にデータ化される安心仕様。
だから本といえば電子データを指す。紙媒体は、あくまで借り物だった。
そのため、青年は実際の実物の本に触れるのも初めてなことだ。紙の媒体。今は図書館庫に保管され、借りることしかできなくなった過去のアーティファクト。

ちょっと唾をこくんと飲み込むか。

指先で表紙を撫でる。閉じた本のページを、分厚さから指で確かめる。
背表紙を叩いて見せてから、意を決して表紙を指先でつまめばまくる。
文字の世界への扉を開く。


問題は、それが官能小説であることだが。
ページを巡る。文字に沈む。
思考が巡る。脳裏に浮かべる。
没入するように、指先を踊らせて。紙のめくる音がここちいい。


──ただし、読み進める途中、出た感想は冒頭の通り。
口元に手をやり、その手はスルスルと、頭を抱えるような位置へと移動した。
それでも読むのをやめないあたり。

ずっと頭抱えてんだけど。


──一晩、思春期の青年をやっている。




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【中央都市セレシオンの現在の人口数は変わりなくXXXXX人となります】




清廉潔白な世界で生きている。

病的なほど、清潔な中で生きている。

彼らは徹底された管理をされている。

彼ら今年では人数制限がおこなれており、また(略)




「俺たちは」



自由に愛すことのできないこの世の中だ。
自由にナンパもできないこの世の中だ。
色気のあることなんてエリアが決まっている。
静かに文明が保たれている。
発展も後退もないかのまちでは、恒久的な平和が保証されていた。
停滞が続いている。



「色気ある小説は初めて」

そんなもの。大災害の前まだあった、そんな存在であることしか知らないんだから。




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「とりかえ子の噂って知ってる?」



「チェンジリングってやつだ 昔妖精の存在が信じられてた時は あったらしいね 生まれてきた子をそのことは別のそっくりにかえるんだって………」



「そうそう、そう、あそこの病院で生まれた子供の一部は」




──すり替えられちゃうって噂だよ。


でもすり替えられてもそれが赤子なら、育っちゃえば実子と同じじゃんね」




以上、街中のありもしない話。