RECORD
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「太古の昔、この世は混沌の激流の中にありました」

「我らが神である創壁神は混沌の渦の中より我々人間を掬いとり
混沌に冒されぬよう、安寧の箱庭を授けました」

「神は私たちをお救いあそばれた。
であれば我々は、この箱庭を護り抜くべきだ」

「我々は壁を護るもの。混沌と箱庭の境界を護るもの。
教えを説く教会は、境を護る境会である」

「「「『汝、“今”を愛しなさい』」」」

「過去を、今を、存続させること。
多くを求めず今の平穏を享受すること。
この箱庭を、在り続けさせること」

「それこそが、神に救われた我々が唯一出来る
神への恩返しなのです」

「けれども壁の外の混沌が、我々を羨んで箱庭へと入り込みます」

「僕達は混沌から作り出された魔の物。
全ての魔物の父であり母である魔王のもと
生み出された強大な一族」

「人間を滅ぼし、この世界を魔王様に差し上げる。
僕達はそのために生み出され存在する」

「魔物と人間の力の差は歴然でね、
魔物の数が少ない今は目立って領土の境界は動いてないんだ」

「魔物が増えて人間が脅かされるようになった時、
神は人間から勇者を選び出すと言われています」

「勇者は神の遣い、神の意志の代弁者!
数多の魔物を打ち倒す、人類種の希望!」

「魔物の増加が一定値まで達した際、天使により“勇者”選定され、
それのサポートのもと勇者は人魔のバランスを整えます。」

「俺は勇者として、魔物を、
世界を混沌に陥れるものたちを、排さなければならない」

「この世の秩序は我らが神、創壁神そのもの、その想い。
それを無碍にするものには、裁きが必要なのです」

「水は流れなければ淀み、澱を孕み、濁って行く。
停滞は世の毒だ。変化をしなければならない」

「平和を破壊する人達なんて、見過ごせません。
勇者一行として、彼らに対峙しない訳には行きませんよね」

「壊さなければなりません、この歪な形の平和を。
皆が己の意思で、己の道を歩くためには、
創壁神の言葉は枷でしかありません」

「勇者であるお前が決めろ。
あいつらの悪行を見逃すか、勇者の名のもとに正しに行くか」

「だから彼らは僕たちを倒しに来るはずだ。
きっと、それは劇的な幕引きになる」

「…………これもまた、この世界を彩る物語のひとつに過ぎない……って言うのか?」

「この世界は終わらねぇ。邪教がどう暗躍しようと、神の名のもとに境会が動こうと。何も生まれない、何も、意味が無い。全てが元に戻ってしまう。
勇者が勇者であり、魔王との宿命として生まれる限り」

「創壁神を 殺します」

「いつか」
*
ぱき、と何かの砕ける音で急激に覚醒した。
身体中が引きちぎられる様に痛く、血液が身体から流失して行くのを生々しく感じながらも、
急激に覚醒した意識が、このままではいけないと起き上がる。
立ち上がるにも脚が動かなくて、泥のような地面に左手指を突き立てて
土を握るようにして、引きずるように身体を動かした。
よく前も見えないが、止まったら死ぬと思った。
少しでもここを離れなければいけないと思った。

「──し、んで、 たまる、か…… 」
不思議な事に、嫌な想像が殆ど頭を過ぎらなかった。
死んでしまう、もう無理だ、など、思わなくて
何がなんでも生き残ってやる。その感情だけで、
冷えた身体を引きずったのは、どれぐらいの距離だったか。

「 ────、──!! 」
音ではない、声が聴こえた気がした。
けれども何を言ってるかが全く聴き取れない。
人間の声が聴こえた気がして、人が迫ってくる気がして、その人の手が触れた気がして、
人の気配に安堵してしまったせいだろうか。
せめてもう少し保って居たかった意識が、
暗闇に足を踏み外したように呑み込まれた。