RECORD
Eno.273 玉守 蜜喰の記録
欲を失った半妖
——饕餮。
私の母親はそう呼ばれた妖怪と人間の間に生まれた存在だった。
そして私も母からその血を引いている、いわば妖怪のクォーター。
一族は共喰いを繰り返し、あるいは人喰いを繰り返したことによって討伐され、生き残りはほとんどいない。
私自身も母親に喰われかけたところを人間の父親に身を挺して庇われ生き延びた。
飢えに苦しみながら人を襲う妖怪を喰らい、時には人に助けられ時には人に追われ。各地を転々としながら、たどり着いた先で私はなんとか安息の地を得た。
その生の中で私はいつしか『人間になりたい』と望むようになり、そしてその願いは果たされた。
妖の力は失われ、今の私は無力な存在だ。
そして、かつて私の中にあった貪欲な獣としての欲は力ともに失われてしまった。
……私の持っていた力は、決して優れたものでもない。
人ならざる存在を惹きつけ欲を暴く甘い香り。それに誘われて襲いかかってきた敵から斃されぬための再生能力。そして敵を返り討ちにするための膂力。
ただそれだけ。けれどそれらが失われただけでもかつての自分よりも脆弱な身であることは疑いようはない。
今の私が人間になれたのはたくさんの友人や協力者のおかげだ。
だから私は自分のためではなく、友人や他人のために生きようと思った。
……なんてことをはっきり言うと1番の友人である美琴ちゃんには「ちゃんと自分の幸せのために生きろよ」って怒られるけど。
人間になって幸せな家庭を築きたい。
それが私の夢だったけど、私が誰かと結ばれるのはきっと無理なんだってそれが痛いくらい身に染みて分かってしまった。
だから人間になったことで満足しようとしているの。
昔から私は諦めることに慣れていたし、いつだって最後は置いて行かれて独りだったから。
とにかく私は強くならなくちゃいけない。
私が人間じゃない存在の血を引いているのは、力を失ったとしても変わらない。
私自身が私を人間だと定義しても、周りがそうとは限らないし、それが理由で問題が起きるかもしれない。
特に人ならざる者を惹きつける香りの能力は失われていても、私の一族の肉は美味だというからそれで狙われるんじゃないかと美琴ちゃんは気にしているみたい。
だからみんなを心配させないように、いざという時に身を守れるように強くなりたい。
私は独りでも平気なんだって、安心させたい。
それが今の私の望みなの。
━━現実は物語と違ってハッピーエンドでおしまいにはならない。幸せの後にも人生は続く。
それなら、幸せであり続けることは難しい。
『幸せになって』と言われるけれど、みんなは私に何を望んでいるのかしら。
具体的な答えがあるなら、それを目指せるのに。
どれだけ人間らしくなろうとしても、人間のことを学んでも、まだ私にはその答えは見つからないわ。
私の母親はそう呼ばれた妖怪と人間の間に生まれた存在だった。
そして私も母からその血を引いている、いわば妖怪のクォーター。
一族は共喰いを繰り返し、あるいは人喰いを繰り返したことによって討伐され、生き残りはほとんどいない。
私自身も母親に喰われかけたところを人間の父親に身を挺して庇われ生き延びた。
飢えに苦しみながら人を襲う妖怪を喰らい、時には人に助けられ時には人に追われ。各地を転々としながら、たどり着いた先で私はなんとか安息の地を得た。
その生の中で私はいつしか『人間になりたい』と望むようになり、そしてその願いは果たされた。
妖の力は失われ、今の私は無力な存在だ。
そして、かつて私の中にあった貪欲な獣としての欲は力ともに失われてしまった。
……私の持っていた力は、決して優れたものでもない。
人ならざる存在を惹きつけ欲を暴く甘い香り。それに誘われて襲いかかってきた敵から斃されぬための再生能力。そして敵を返り討ちにするための膂力。
ただそれだけ。けれどそれらが失われただけでもかつての自分よりも脆弱な身であることは疑いようはない。
今の私が人間になれたのはたくさんの友人や協力者のおかげだ。
だから私は自分のためではなく、友人や他人のために生きようと思った。
……なんてことをはっきり言うと1番の友人である美琴ちゃんには「ちゃんと自分の幸せのために生きろよ」って怒られるけど。
人間になって幸せな家庭を築きたい。
それが私の夢だったけど、私が誰かと結ばれるのはきっと無理なんだってそれが痛いくらい身に染みて分かってしまった。
だから人間になったことで満足しようとしているの。
昔から私は諦めることに慣れていたし、いつだって最後は置いて行かれて独りだったから。
とにかく私は強くならなくちゃいけない。
私が人間じゃない存在の血を引いているのは、力を失ったとしても変わらない。
私自身が私を人間だと定義しても、周りがそうとは限らないし、それが理由で問題が起きるかもしれない。
特に人ならざる者を惹きつける香りの能力は失われていても、私の一族の肉は美味だというからそれで狙われるんじゃないかと美琴ちゃんは気にしているみたい。
だからみんなを心配させないように、いざという時に身を守れるように強くなりたい。
私は独りでも平気なんだって、安心させたい。
それが今の私の望みなの。
━━現実は物語と違ってハッピーエンドでおしまいにはならない。幸せの後にも人生は続く。
それなら、幸せであり続けることは難しい。
『幸せになって』と言われるけれど、みんなは私に何を望んでいるのかしら。
具体的な答えがあるなら、それを目指せるのに。
どれだけ人間らしくなろうとしても、人間のことを学んでも、まだ私にはその答えは見つからないわ。