RECORD

Eno.414 『幾千』作品№414 AGEHAの記録

記録1「蝶」

3年という長い時間、ずっと眠っていたらしい。
たまに聞かれることがある。
「どんな夢を見ていたの?」と。

……覚えているのはたった3つだけ。
とても綺麗な、川の夢。



川のせせらぎの音。
誰かが砂利や小石を踏む音。
———船に乗るよう促す声。

川辺には沢山人がいて、その人たちは知っているような、知らないような………曖昧だった。
顔がはっきり見える人と、見えない人。
後者の方が圧倒的に多くて、誰か知り合いがいないか歩き回っている内に「きっと夢なんだろうな」と、幼いながらも察した。

けれど小石を踏む感覚も
風に乗ってくる川の香りも
たまにぶつかる人の重みも
何もかも現実と同じだった。

「そこの少年、次は君だよ」

ふと、誰かに話しかけられて右腕を引かれる。
着物を着た女の子だ。自分は背が高い方じゃないから、彼女の方が大きくて引っ張る力も強かった。
だから、簡単に小舟に乗せられる。自分以外にも何人か乗っていた。

「どこにいくの?」

「まだ乗れるから早くして」
「忙しいね、いきなりどうしたの?」
「病が萬栄したんだって」


自分の問いに、彼女は聞こえていないかのように答えないし、他の船頭の少女たちと世間話をしていた。
自分以外の人は………なんだかおぼろげで、俯いている人、泣いている人、寝ている人とあまり元気が無さそう。



ふと、蝶々が飛んでいるのが目についた。
なんだか放っておけなくて、少女たちの目を盗んでそれを追う。
……小舟には、子供一人分の空きができだ。

『博士はね、モンシロチョウみたいに白い子なの』

いつか母が言っていた気がする言葉。
そんなの覚えていたかは定かではない、夢中で空に手を伸ばして蝶を追いかける。
人間の手で虫を握ったら、虫は死んでしまう。
でも掴まないと捕まえられない、利き手じゃない左腕を必死に伸ばして空を飛ぶ蝶を掴む。

と、不意に落ちた。
比喩ではなく、まるで落とし穴でもあったかのように真っ暗闇の底に落ちていく。

———一回目の夢は、それで終わり。