RECORD
Eno.34 シャルティオの記録
【0-17 戦勝の凱歌】
◇
第一王子フォーリンが出て行ってから、
どれぐらい過ぎただろう。
季節は真夏。王宮で待ち続ける
シャルティオの元に、知らせが来た。
ひとつ。第一王子フォーリンの戦死。
ひとつ。帝国に支配されていた国々の叛逆。
ひとつ。“覇王”ニコラス・アルドフェックの戦死、戦乱の終結。
シャルティオが何もしないまま、
何も知らないままに戦争が始まり、そして終わった。
シャルティオはその知らせを、
安全な王宮の中で聞いていた。
現実感がなかった。
世界はこれから、平和になりますか?
現実感がなかった。
僕はこれから、必要とされますか?
──現実感が、なかった。
戦争から引き離されていた
シャルティオは、何も分からない。
ただ気付いたら、
全てが終わっていたのだった。
城に戻ってきた女王は、疲れた顔をしていた。
けれど城に残った皆の姿を見れば、
前を向いて、凛とした声で告げたのだった。

犠牲は確かにあったのに、
女王のその一言だけで王宮は湧き立つ。
魔導王国の光の女王、偉大なる女王、
フォルーシア・アンディルーヴ。
その声を言葉を、シャルティオは隅っこで聞いていた。
そんなあなたにこそ、
僕は愛されたかったんだ、認められたかったんだ。
女王の偉大さを見れば見るほど、
惨めな気持ちになるのは何故だろう。
あれだけ己を否定されたのに、
それでもまだ認められたいと願うのは何故だろう。
女王フォルーシアの存在は、
シャルティオの心の根幹を成す。
だからこそ、愛されなくても認められなくても、
この女王が無事に帰ってきてくれたことに、
シャルティオはほっとしていた。

小さく呟いたその言葉は、
届きはしないのだろうけれど。
◇
それから3日後。
魔導王国の戦勝と邪悪なる帝国の崩壊を記念して、
祝賀会が開かれた。
第一王子フォーリンの葬儀は、
この祝賀の後に執り行われる。
次の王を誰にするかの問題は残っているが、
ひとまずは勝利を祝いましょうと女王は告げた。
強く格好良く凛としていて常に完璧な、
偉大なる魔導王国女王。
戦争に疲れていても、シャルティオには
彼女が何よりも輝かしい存在に見えている。
楽しい楽しい祝賀会。
今は全ての悲しみも怒りも忘れて、
ただこの勝利を祝いましょう。
シャルティオも皆に紛れてこの宴を楽しんでいたけれど、
「…………ねぇ、キィル」
ちょっと気になることがあって、
傍らの従者の袖を引いた。
どうされましたと首を傾げる従者に、
シャルティオは疑問を投げ掛けた。

あの賑やかな性格のフェンドリーゼならば、
こんな楽しそうな祝賀会に絶対に参加すると思っていた。
そしてあの彼ならば、自分に声を掛けると思っていた。
なのにいない、何処にもいない。
そう言えば長兄フォーリンは死んだよな、
と嫌な予感が脳裏を過ぎる。
そんなシャルティオに、
キィランが優しい笑みを向けた。
「フェン様は、他の国まで足を運んでおられます。
帰還が間に合っていないだけだと、
私は思っておりますよ」
「……そうだと、良いけど」
『万事上手く行く』『俺を信じて!』
言っていた兄を思い出す。
確かに、長兄の犠牲こそあったものの戦争には勝ったようだし、
これから魔導王国には平和が訪れるのだろう。
その裏できっと、あの次兄が動いていたはずだ。
シャル様、とキィランが
身を屈めて目線を合わせた。
「……シャル様は、あのフェン様が
簡単に死ぬようなタマだと思われますか?
あのひとならば、どんな地獄にいても
へらりと笑って帰ってきそうな感じがしません?」
想像した。
あの、明るく強い次兄だから、だからこそ。
「……そうだね。兄さんが倒れる場面なんて、
僕、想像出来ないや」
「なればこそ。フェン様の無事を信じて、
今はこの宴を楽しみましょうや、シャル様」
従者の言葉に、うん、と頷く。
信じているから、絶対に、帰ってきてね。
【0-17 戦勝の凱歌】
【0-17 戦勝の凱歌】
◇
第一王子フォーリンが出て行ってから、
どれぐらい過ぎただろう。
季節は真夏。王宮で待ち続ける
シャルティオの元に、知らせが来た。
ひとつ。第一王子フォーリンの戦死。
ひとつ。帝国に支配されていた国々の叛逆。
ひとつ。“覇王”ニコラス・アルドフェックの戦死、戦乱の終結。
シャルティオが何もしないまま、
何も知らないままに戦争が始まり、そして終わった。
シャルティオはその知らせを、
安全な王宮の中で聞いていた。
現実感がなかった。
世界はこれから、平和になりますか?
現実感がなかった。
僕はこれから、必要とされますか?
──現実感が、なかった。
戦争から引き離されていた
シャルティオは、何も分からない。
ただ気付いたら、
全てが終わっていたのだった。
城に戻ってきた女王は、疲れた顔をしていた。
けれど城に残った皆の姿を見れば、
前を向いて、凛とした声で告げたのだった。

「──我らが魔導王国は、
勝利した!」
犠牲は確かにあったのに、
女王のその一言だけで王宮は湧き立つ。
魔導王国の光の女王、偉大なる女王、
フォルーシア・アンディルーヴ。
その声を言葉を、シャルティオは隅っこで聞いていた。
そんなあなたにこそ、
僕は愛されたかったんだ、認められたかったんだ。
女王の偉大さを見れば見るほど、
惨めな気持ちになるのは何故だろう。
あれだけ己を否定されたのに、
それでもまだ認められたいと願うのは何故だろう。
女王フォルーシアの存在は、
シャルティオの心の根幹を成す。
だからこそ、愛されなくても認められなくても、
この女王が無事に帰ってきてくれたことに、
シャルティオはほっとしていた。

「……お帰りなさい、母上」
小さく呟いたその言葉は、
届きはしないのだろうけれど。
◇
それから3日後。
魔導王国の戦勝と邪悪なる帝国の崩壊を記念して、
祝賀会が開かれた。
第一王子フォーリンの葬儀は、
この祝賀の後に執り行われる。
次の王を誰にするかの問題は残っているが、
ひとまずは勝利を祝いましょうと女王は告げた。
強く格好良く凛としていて常に完璧な、
偉大なる魔導王国女王。
戦争に疲れていても、シャルティオには
彼女が何よりも輝かしい存在に見えている。
楽しい楽しい祝賀会。
今は全ての悲しみも怒りも忘れて、
ただこの勝利を祝いましょう。
シャルティオも皆に紛れてこの宴を楽しんでいたけれど、
「…………ねぇ、キィル」
ちょっと気になることがあって、
傍らの従者の袖を引いた。
どうされましたと首を傾げる従者に、
シャルティオは疑問を投げ掛けた。

「…………兄さんは、何処?」
あの賑やかな性格のフェンドリーゼならば、
こんな楽しそうな祝賀会に絶対に参加すると思っていた。
そしてあの彼ならば、自分に声を掛けると思っていた。
なのにいない、何処にもいない。
そう言えば長兄フォーリンは死んだよな、
と嫌な予感が脳裏を過ぎる。
そんなシャルティオに、
キィランが優しい笑みを向けた。
「フェン様は、他の国まで足を運んでおられます。
帰還が間に合っていないだけだと、
私は思っておりますよ」
「……そうだと、良いけど」
『万事上手く行く』『俺を信じて!』
言っていた兄を思い出す。
確かに、長兄の犠牲こそあったものの戦争には勝ったようだし、
これから魔導王国には平和が訪れるのだろう。
その裏できっと、あの次兄が動いていたはずだ。
シャル様、とキィランが
身を屈めて目線を合わせた。
「……シャル様は、あのフェン様が
簡単に死ぬようなタマだと思われますか?
あのひとならば、どんな地獄にいても
へらりと笑って帰ってきそうな感じがしません?」
想像した。
あの、明るく強い次兄だから、だからこそ。
「……そうだね。兄さんが倒れる場面なんて、
僕、想像出来ないや」
「なればこそ。フェン様の無事を信じて、
今はこの宴を楽しみましょうや、シャル様」
従者の言葉に、うん、と頷く。
信じているから、絶対に、帰ってきてね。