RECORD

Eno.282 マキの記録

ここにくるまで

 
「トモリ……さんはどうやって強くなったの」

少女の視線の先、サングラスをかけた黒髪の女は木刀を肩にかけながら悠然と立っている。
ひっくり返って上下さかさまの中、女――トモリは嗤う。

「知らねぇよ。最初っからそういうもんだった」

残念ながら、な、と口の端を持ち上げる。

「んなこと聞く暇あったらもう一本行くぞ、おら立て」

木刀の先でつついてくるが、戦いどころか
武器すらろくに握ったことのない私に教えてくれるのだから、変わった人だと思う。
応えるように立ち上がって、息を整えて、私も木刀を構える。

「っせ」
「遅い甘い鈍い」

気合の声を出し切る前に剣先はいなされそのまま脇につきこまれた木刀が力だけで私をまた地面に倒す。

「いったい…… ――じゃあ、魔法は?」

「それもしらん。そうあるもんだと思われたんだろ」

ほら次、と言わんばかりに木刀の峰で己の肩を叩いている。

「しっかしホント弱ぇーな」
「トモリさんがとんでもないの」
「じゃあ他いきゃいいだろ」
「断られたの知ってて言うの、いじわる」

ある程度腕に覚えがある者たちが集う場所
彼女より優しい人はたくさんいた。
が、自分に指導してほしいというと

『ボクどうやって練習してたっけ?』
『俺に会う前のことを聞くなよ』
『おれはちょっと忙しいし……先に教える相手がいるから』
水色の髪をした青年の横でモノクロの少女が申し訳なさそうにしていたが、
その髪をなでる手つきは傍から見ていても優しさに満ちていて、
彼女が自分の身を守れるようになるためなら、と素直にあきらめることができた。
他は……
『自分のは真似しないほうがいい』とか
『魔法と合わせてるから……魔法が使えないことにはなあ』


など、……惨敗。
異世界で修行すると決めた少女に興味をもってニヤニヤ眺めていた彼女くらいしか引き受けてくれなかったのだ。
実際武器も魔法もあの場所では一番強いらしい、ので、学べるものは全部学ぶつもりでいたけれど。

規格外すぎて教えも何もない!

このままじゃ受け身ばかりうまくなってしまう、と流していたのもつかの間、
本当に何も吸収できなくて、少女の構えが乱れてきたころ

「まず、の話だ」
「お前は何を使いたい?剣か?持っていた斧か?」
「それとも他に相性がいいものがあればそっちにするのか?」
「試したことは?」

少女を転がす方法を一通り試して飽きてきたトモリは少女を見下ろしながら尋ねる。

「なに、も」

試したことはない、と首を振ると大きなため息が帰ってきた。
そして懐から手帳を取り出し、頭からざっとめくっていき
目的のページを見つけるとちぎり取って少女の上で手放す。

ひらひらと落ちてきたものを掴むと、背中にあるはずの地面が、視界が、回り始める

「そこで一通り試してこい」
「ついでに組手だ。相手が俺じゃなきゃ数こなしてくうちになんかわかんだろ」
「俺の教えはそのあとだ」

そんな言葉が、目の前が暗転する中でも聞こえて

気が付いたら、ここにいた。

早く帰らなきゃマリーが心配する、と思う、けれど
強くなりたい。

だから、少しだけ待ってて。
___くんのところに行く前に、マリーのことも守れるようになるから。

アヤ、ここで頑張ってみる。


「ああ、名前は隠しておけよ」
「どこに行くにも、本名をすべて名乗るな。それだけで魔法の触媒になる」

……そういうことは教えてくれるんだよね