RECORD
Eno.264 L = Agrostemmaの記録
この世界というのは上手くできているもので。
群青とこの戦場を繋げる海は、決まり切っていて安定しているのもあって、連絡もすぐ届く。
「……父上が名指しで手紙を寄越すなんて、珍しいな」
嫌な予感しかしないが、まあ、こういうことはたまにあった。
名目上、王国内での自分の扱いは「アグロステンマの嫡男・後継者」であるからだ。
後継者どもの集まりに顔を出せとか、どこそこの家と仲良くしろだとか、
所謂「家の仕事」についてはよくこうして、「レンデン」と名指しで手紙が来たものだ。
「…………。」
姉が風呂に行っている間に確認する。
いつもそうだ。それぐらいしか俺達の間に隙間はない、……とまでは言わないが、
俺達はそれぐらい一緒だった。
それに文句は言わせないし、言うつもりもなくて、ただ、でも。
そろそろ姉と離れて一人、戦場に行くのかもなと薄らと思いを描いていた。
「…………は、」
差出人は、正しく言えば父ではなく、本家邸宅を取り仕切る執事長からだった。
目を通した便箋を、取り落としそうになって、くしゃりと思わず握り潰す。
くしゃくしゃになったその文字を見て。
現実だ、と悟る。
もちろん、もちろん、すぐではない、けれど。
そういえば、そうだったと、どうでもいい情報として頭の隅にすら置いておかなかった自らが悪いと言われてしまえば、そうなのだけれど。
「……おと、うと」
それは、姉と自らを産んでくれた母、ではなく。その母の死後、数か月もたたずに迎え入れられた後妻の。
出産と―――その子の、報せ。
そこにあるのは兄になった、という喜びなどではない。
例え産まれただけであろうとも、おまえに罪が一つもなくても、俺は、お前を恨むだろう。
「弟…………」
"双子として忌み嫌われてきた。
「金の眼」は忌々しい証だ―――けれどこの家の証だ。
今でこそ王家に尻尾を振っているが、どうせ、赤い血の混じった蛮人だ。"
ああ―――それでも、王家に仕えるに相応しく、ひたすら牙を、爪を、この体を磨き続け、血反吐と土埃にまみれて尚―――。

『無事にご出産なされました。
素晴らしい 青い目 の 男の子 でございます。
母子ともに健康であります。
つきましては、ご当主様は』
「………あおい、め」
俺たちがいくら欲したところで、手に入らない、尊いもの。
いくら足掻いたところで、どうしようもない、もの。
『家訓しきたりに従い、無事に10を数えたならば、
―――この男子を、次期後継と認め、現後継は、廃嫡とすることを決定され……』
「は、……」
まだ十年もある。
―――十年しかない。
まだ赤ん坊に何ができるよ。
きっと、本家が総出を持って鍛え上げるだろう。
姉に頼りながら生き抜いた俺を無傷と言えるのか?
言えない。
弟を暗殺でもなんでもすればいい。
そんなことをしたところで、怪しまれるのは俺だし、無罪だとしても俺が処罰される。
姉さん。
俺は、俺の為には、何もしない方がいい。
姉さんを護らなきゃ。
いや、姉さんはきっと公のところに行く、それは変わらないから平気だ。
じゃあ俺は?
なにもない。
下手に目立ってしまえば、すぐ、何かを押し付けられて、この首は撥ねられるだろう。
せめて、母さんに―――なんの感情もないんだろうか、あのひとは。
ないんだろう―――双子なぞを産んだ、女など。
十年あれば。
一人で隠れて生きていく術なんて、簡単に身につけられる、平気だ。
本当に?
ああ、もう姉さんが戻って来る。
隠さないとな。
群青とこの戦場を繋げる海は、決まり切っていて安定しているのもあって、連絡もすぐ届く。
「……父上が名指しで手紙を寄越すなんて、珍しいな」
嫌な予感しかしないが、まあ、こういうことはたまにあった。
名目上、王国内での自分の扱いは「アグロステンマの嫡男・後継者」であるからだ。
後継者どもの集まりに顔を出せとか、どこそこの家と仲良くしろだとか、
所謂「家の仕事」についてはよくこうして、「レンデン」と名指しで手紙が来たものだ。
「…………。」
姉が風呂に行っている間に確認する。
いつもそうだ。それぐらいしか俺達の間に隙間はない、……とまでは言わないが、
俺達はそれぐらい一緒だった。
それに文句は言わせないし、言うつもりもなくて、ただ、でも。
そろそろ姉と離れて一人、戦場に行くのかもなと薄らと思いを描いていた。
「…………は、」
差出人は、正しく言えば父ではなく、本家邸宅を取り仕切る執事長からだった。
目を通した便箋を、取り落としそうになって、くしゃりと思わず握り潰す。
くしゃくしゃになったその文字を見て。
現実だ、と悟る。
もちろん、もちろん、すぐではない、けれど。
そういえば、そうだったと、どうでもいい情報として頭の隅にすら置いておかなかった自らが悪いと言われてしまえば、そうなのだけれど。
「……おと、うと」
それは、姉と自らを産んでくれた母、ではなく。その母の死後、数か月もたたずに迎え入れられた後妻の。
出産と―――その子の、報せ。
そこにあるのは兄になった、という喜びなどではない。
例え産まれただけであろうとも、おまえに罪が一つもなくても、俺は、お前を恨むだろう。
「弟…………」
"双子として忌み嫌われてきた。
「金の眼」は忌々しい証だ―――けれどこの家の証だ。
今でこそ王家に尻尾を振っているが、どうせ、赤い血の混じった蛮人だ。"
ああ―――それでも、王家に仕えるに相応しく、ひたすら牙を、爪を、この体を磨き続け、血反吐と土埃にまみれて尚―――。

『無事にご出産なされました。
素晴らしい 青い目 の 男の子 でございます。
母子ともに健康であります。
つきましては、ご当主様は』
「………あおい、め」
俺たちがいくら欲したところで、手に入らない、尊いもの。
いくら足掻いたところで、どうしようもない、もの。
『家訓しきたりに従い、無事に10を数えたならば、
―――この男子を、次期後継と認め、現後継は、廃嫡とすることを決定され……』
「は、……」
まだ十年もある。
―――十年しかない。
まだ赤ん坊に何ができるよ。
きっと、本家が総出を持って鍛え上げるだろう。
姉に頼りながら生き抜いた俺を無傷と言えるのか?
言えない。
弟を暗殺でもなんでもすればいい。
そんなことをしたところで、怪しまれるのは俺だし、無罪だとしても俺が処罰される。
姉さん。
俺は、俺の為には、何もしない方がいい。
姉さんを護らなきゃ。
いや、姉さんはきっと公のところに行く、それは変わらないから平気だ。
じゃあ俺は?
なにもない。
下手に目立ってしまえば、すぐ、何かを押し付けられて、この首は撥ねられるだろう。
せめて、母さんに―――なんの感情もないんだろうか、あのひとは。
ないんだろう―――双子なぞを産んだ、女など。
十年あれば。
一人で隠れて生きていく術なんて、簡単に身につけられる、平気だ。
本当に?
ああ、もう姉さんが戻って来る。
隠さないとな。