RECORD

Eno.34 シャルティオの記録

【6 其れは呪いのような】

 
 きっかけは何だったんだろう。
 夕方のダイナー。僕が友達の話をして、
 ニーズさんが「羨ましい」と言って。

 そこから、どうなったろう。
 ニーズさんの淡々とした言葉を、
 僕が「怒られてる」と勝手に勘違いして自責して、
 それで思考停止してしまったんだ。

 ……怖くなって酒場を飛び出した。
 ダメじゃん、これじゃあ
 ニーズさんを悪者にしてしまう。

 後からソラと話して落ち着いて、
 ただの誤解、誰も悪くないと理解した。

「…………あやまらな、きゃ」


 ニーズさんに謝らなきゃ。
 そしてまた、これまでみたいに、
 ダイナーの素敵な仲間に戻れますか。

   ◇

『お前なんて死んだ方がマシ』
『お前に生きている価値なんてない』
『出来損ないめ』


 いつも声が聞こえていた。
 それは兄さんによって殺された、
 長兄あにうえと母さんの声だった。

「……ごめん、な、さ」


 振るわれる暴力に、向けられる暴言に、
 機械的に謝るのが日常だった。
 謝ったところで、どうにもならないのに。

 今はもう兄上も母さんもいないのに。
 僕を責める声も僕を殴る姿も、
 消えやしない、消えてくれない。

 些細なことでフラッシュバックして、
 それが今日みたいな事故を引き起こす。
 ちがう、ちがうの、ごめんなさい。
 あなたは悪くないのに。

 まるで呪いみたいだ。
 親のかけた呪いは、当人が死んでも残ってる。
 罪悪感で吐きそうだった。

 ごめんなさい。

  ◇

 夢を見て飛び起きた。おかあさんと兄上の夢。
 従者キィルの心配げな顔が近くにあった。
 眩暈がした。こころがいたい。

「…………おかーさん」


 こんな呪いを遺すぐらいなら。
 少しでも良かった、僕を愛して欲しかった。
 あなたのせいで、僕が悪い子だから、
 苦しくてたまらないんだ。

 いたいよ。

 痛くて苦しくて過呼吸になってたら、
 キィルが僕の背中を撫でて、
 大丈夫だよと優しい声掛けてくれた。

 少ししたら治まったけど、
 頭に恐怖の影がちらついて消えないや。

 教えて。
 あなたたちは、どうしたら消えてくれるの。
 何で死んだ後も僕を苦しめるの。

 泣きたかった、泣けかなかった。
 泣いたらまた、肌が灼けて痛くなるもの。

「ごめ……な、さ、」


 うわごとのように、呪いのように。