RECORD

Eno.34 シャルティオの記録

【0-19 魔導王国の咲花王】


【0-19 魔導王国の咲花王】

  ◇

 戦争が終わったと思ったら
 偉大なる女王が王子に殺され、王宮は荒れる。
 まだ第一王子の葬儀も終わっていない。
 女王の葬儀は? 次の王は? 残っている王族は?

 そんな日々の中、心に傷を受けて
 引きこもるシャルティオの部屋に、
 訪問者があった。

「シャルティオ殿下に、お願いがあります」

 通した人物は、王宮魔導士長ギャレット・サヴィア。
 人付き合いの少ないシャルティオでも、
 彼のことはもうそれなりに知っている。

「…………何」

 あの後で何度も何度も泣いて泣いて、
 頬に消えない傷痕を作ったシャルティオ。
 感情の消えた声でギャレットに尋ねる。
 ギャレットが咳払いをし、跪いた。

「──シャルティオ殿下に、
 次の王になって頂きたいのです」

「……僕、が?」


 シャルティオは驚いた顔で、
 跪くギャレットを見た。

 そう言えば、と思い出したのは、
 長兄を見た最後の日のこと。
 ギャレットと長兄が喧嘩していて、
 その後でキィランが言ってくれたこと。

『……王位継承者ならば、ここにおられますよ?』
『──私は、シャル様の治める魔導王国をこそ、見てみたい』


 長兄の死は、あのフェンドリーゼひとごろし
 仕組んでいたことだとキィランが言っていた。
 そして母親も彼が殺し、もうシャルティオが
 王になることを妨げるものはない。

 最初からそのつもりだったのだろうか。
 それが“最善”だと信じていたのだろうか。

 改めて今の魔導王国を思う。
 偉大なる女王は死に、第一王子も死に、
 第二王子は国賊になった。

 双子の王女は、上の者に従うことで己の身を守ってきた。
 姉双子が次の王に向いているとは思えないし、
 どちらを王にするかの問題も出てくるだろう。
 消去法、残されたのは。

「…………僕で、良いの?」


 他の皆が戦争に行く中、シャルティオだけが
 城に残された理由は。

 役立たずなんかじゃなくて、
 この為に守られていたのだとしたら。
 この為に、フェンドリーゼが己を
 フラウィウスから連れ戻したのだとしたら。

 最初から、あの兄は全て分かっていて動いていた。
 やった行動が許されるものではなくとも、
 考えなしの愚かな第二王子ではなかった。

「こんな出来損ないの僕でも……
 毒と傷だらけの第三王子が、
 この魔導王国の王になっても…………」


「シャル様だからこそですよ」


 ギャレットの隣、キィランが跪いた。

「……シャル様はこれまで、
 その年齢に見合わぬほど過酷な道を歩まれてこられました。
 そんなシャル様は、亡き女王陛下のように
 完璧ではおられぬやも知れません。
 けれどそんなシャル様だからこそ、
 人々の痛みの分かる優しい王になれると、
 私は信じておりますよ」

「…………そう」

 かつて兄が捨てた王位継承権。
 幾ら望んでも得られないと分かっていたそれを
 簡単に捨てたあの兄を恨んだ日もあったが、
 まさか自分が王にと望まれる日が来るなんて。

 シャルティオは魔導王国のことが好きではない。
 それでも、誰かに必要とされるなら。
 こんな自分でも必要としてくれるなら。

「今の魔導王国の王は、
 シャル様しかおられません」


「…………分かったよ」


 シャルティオは、頷いた。
 凍り付いた心を、動かす時だ。

「……僕が、王になる。
 僕が、亡き母さんに代わってこの国を導く。
 僕が、僕が、頑張る、から──」


 顔を上げて、とふたりに言った。

 部屋の天井を見上げる。冥界へ消えた母を想う。
 貴方に出来損ないと罵られた僕だけれど、
 これから、もっと頑張るから。

(……見守って、くれるよね)


 それでも母に対して抱く思慕は、消えぬまま。

 では、とギャレットが顔を上げる。

「シャルティオ殿下。
 葬儀や即位の日程等、細かいことを詰めとうございます。
 お時間よろしいでしょうか。
 このギャレット・サヴィア、
 これからは殿下の為のお力となります」
「…………分かった。行くよ。キィルも来てね?」
「勿論で御座いますよ、シャル様」

 ふたりを連れて、
 シャルティオは己が引きこもっていた部屋から出た。

 兄が残した心の傷は消えないけれど、
 この痛みは癒えないけれど。
 それでも、表面だけでも繕って、望まれた“王”で在ろう。

 激しい嵐が吹き荒れ長い冬が終わった果てに、
 魔導王国に花が咲く。