RECORD

Eno.160 ノラ・ドニーニャの記録

飢えの哲学

「君は何故」「そんな楽しそうに戦うんだ」

非難でもなんでもなく、純粋な疑問だけで君が問う。
使い終わった剣を淡々と研ぎながら、顔も上げずに投げかけてきた。

「ん〜、キミの影響かな!」
「……戦いが楽しいと思ったことは」「一度もない」

僕はいつもそう答えて、そして君の返しにはほんの少しの非難が混じる。

「仕事にしてんならさ、楽しまなきゃソンじゃない?」
「食ってければ何でも」「これが手っ取り早いから」

「でも、じゃあ、何がキミを戦いに駆り立てたの?」
「恐怖と生存本能で」「戦わなければならなかっただけ」

「今はもう、ちっともない?」
「巻き戻るからね」

まるで押し問答だ。道理を求めよ、なんてね。
君は水に濡れて光る剣を、整備場の微かな明かりにかざして何かを確かめている。
たやすく命を奪える鋭器はもう、作り物の戦いを彩るだけ。

僕も錆びた剣をなんとか研ごうとしてるのにな。
本物の武器とは違って、難しい。

「でもさ。何の感慨もなく、お金のためだけに戦うなんて」
「死にゃしないけど、でも生きてるって言えるのかなあ」

君はくすんだ研ぎ汁を洗い流して、ぴかぴかになった得物を返して、
交差した剣がかかれたチケットと引き換えに端金にもならないFMファイトマネーを受け取る。

それからようやく、君から言葉が返ってくる。

ムシヒトほど」「難しいことを考えない」
「穏やかにいられればいい」「それだけの話だ」

じゃあオレのだって、緑青ろくしょうの目が研がれた刃物より鋭く光るのがまた見たい。
たったそれだけの話なんだけどな。