RECORD
Eno.48 Siana Lanusの記録

泣きそうな顔をした青年が、剣を手に私の視界の上に居る。
随分背が高いな、と漠然と思ったが、違う
私が膝を着いていて、彼を見上げているのだ。

優しい、けれどもどこか冷徹な声が青年の後ろからする。
苦しそうに顔を歪めた青年は、頷いて私の横をすり抜けて行く。
行かせてはならない。そう思って伸ばした右手を
がんと踏み付けるサバトンがあった。

ひどく冷たい声がぐしゃとその手を踏み潰して、
電流の走るような激痛に、ぐらと意識が眩む。
冷たい声の男がその足で私の肩を踏んで、
荒々しく仰向けにさせて、
確かにその細剣は、胸を貫いたはずだった。
*
───頭の中が、どろどろと溶けてしまったような感覚だった。
ひとつも物を考えることも出来ず、
身体のあちこちから己が溶け出しているなか、
小指ひとつで最後のひとつを保っているような、そんな感覚だった。
指のひとつも動かず、瞼を開く事も出来ず、
知覚出来るのは、熱と痛みだけ。
それらすらも遠く感じるのに、
感覚のすべてをそれが占有しているようで、
他の何も、分からなかった。
ひどく長い時間だった。
悠久とも思えるほどの、長い時間だった。
そんななかの、いつだか分からない時。
ふと頬に触れた冷たさに、僅かに痛みが引く。
それで、ほんのすこしだけ視界を開く事が出来た。
殆どぼやけて何も見えない視界のなかで、ぼんやりと、
人らしい形が、首を傾ぎ動いたのを捉えた。

なにか──恐らく声だろう音が聴こえるが、
それが何を言っているのか、把握出来るほど頭が動かない。
漠然と、女の人だということだけ感じた。
助けてくれたのだろうか、とうっすら浮かんだ気付きは
呆気なくどろけた頭の中に呑まれていく。

そのひとが続けて言う言葉も、やはりよく聞こえない。
口に何かが触れ、何かが少量口内に流し込まれて、舌に触れたものに反射的に喉を鳴らす。
それが何なのかなど考える頭も疑う頭も回らない。
続けて女が何かの反応をしていた気もするが、認識しかけたそばから呑み込まれて消えていき、
曖昧な意識の境界から、また深みへと引きずり落とされて行った。
├経過01

「──もう、諦めてくれよ、人間を殺したくないんだ」
泣きそうな顔をした青年が、剣を手に私の視界の上に居る。
随分背が高いな、と漠然と思ったが、違う
私が膝を着いていて、彼を見上げているのだ。

「その様子ならもう追って来れませんよ。
それより先を急ぎましょう」
優しい、けれどもどこか冷徹な声が青年の後ろからする。
苦しそうに顔を歪めた青年は、頷いて私の横をすり抜けて行く。
行かせてはならない。そう思って伸ばした右手を
がんと踏み付けるサバトンがあった。

「……勇者の邪魔をするな、邪教徒が」
ひどく冷たい声がぐしゃとその手を踏み潰して、
電流の走るような激痛に、ぐらと意識が眩む。
冷たい声の男がその足で私の肩を踏んで、
荒々しく仰向けにさせて、
確かにその細剣は、胸を貫いたはずだった。
*
───頭の中が、どろどろと溶けてしまったような感覚だった。
ひとつも物を考えることも出来ず、
身体のあちこちから己が溶け出しているなか、
小指ひとつで最後のひとつを保っているような、そんな感覚だった。
指のひとつも動かず、瞼を開く事も出来ず、
知覚出来るのは、熱と痛みだけ。
それらすらも遠く感じるのに、
感覚のすべてをそれが占有しているようで、
他の何も、分からなかった。
ひどく長い時間だった。
悠久とも思えるほどの、長い時間だった。
そんななかの、いつだか分からない時。
ふと頬に触れた冷たさに、僅かに痛みが引く。
それで、ほんのすこしだけ視界を開く事が出来た。
殆どぼやけて何も見えない視界のなかで、ぼんやりと、
人らしい形が、首を傾ぎ動いたのを捉えた。

「…………?!あ、あ、!!気付きました?!
よかったぁ…………このまま死んじゃうんじゃないかと…………」
なにか──恐らく声だろう音が聴こえるが、
それが何を言っているのか、把握出来るほど頭が動かない。
漠然と、女の人だということだけ感じた。
助けてくれたのだろうか、とうっすら浮かんだ気付きは
呆気なくどろけた頭の中に呑まれていく。

「……ごめんなさい、傷が深くて全然治癒の奇跡が通らなくて……。
…………あっ!!意識があるなら、今のうちに薬茶を……」
そのひとが続けて言う言葉も、やはりよく聞こえない。
口に何かが触れ、何かが少量口内に流し込まれて、舌に触れたものに反射的に喉を鳴らす。
それが何なのかなど考える頭も疑う頭も回らない。
続けて女が何かの反応をしていた気もするが、認識しかけたそばから呑み込まれて消えていき、
曖昧な意識の境界から、また深みへと引きずり落とされて行った。