RECORD
Eno.54 アジュール・プリズムの記録
十四基 吟遊
主様に選ばれた天使は、みな、淡い色合いに羽持ちへと変化します。
天使は街中で姿を晒すことはありません。しかし、認識阻害をした姿、人間の姿を装うことは許可されていました。
アズは天使の中でも最年少です。
情緒の発達は未熟で、天使としての教育も途中であり、長期入院によって世間の常識にも疎いアジュール・プリズム。
単独行動を許可されていない、籠の中に庇護される天使。任務になれば開け放たれて、対象を追い続ける、無垢なる雛鳥のような、無垢なる天使。
アズの使命は、対象を監視し、追跡し、連行し、場合によっては討伐すること。
幼いアズには、まだ、討伐の使命を果たせません。捉えた対象を、追い込んだ対象を、疲弊させた対象を、先輩へ繋げることが、今のアズの使命です。
範囲は街のみ単独で可、となったある日。
アズは近所の路上で歌う壮年を見つけます。
一日だけではありません。二日、三日。続きました。
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高い建物、人口物でできた森。走る鉄の車に、飛ぶ鉄の鳥。
社会は忙しく回っていて、足を止めて歌を聴くような人は、少数派です。
それでも壮年は、いつだって歌っていました。
ここに自分がいると、誰かに知らせるみたいに。
けれども、誰の記憶にも残らないように、目立たないように過ごしていた印象がありました。
声は波となり、街を渡ります。
幼い天使のアズは異世界からの人間の見分け方が分かりません。
パパみたいな暗い色のジャケットを着て、
見たことのない木でできた弦の楽器を使って、
朗々と弾き語りをする壮年が、
この世界の人だと思うには、十分でした。
アズは、壮年から紡がれる世界を覗き見るのが大好きでした。
どこかの知らない世界、どこかの知らない時代の、 どこかの知らない誰かの物語。
壮年の紡ぐ世界の中に迷い込んで、冒険したり、恋の応援をしたり。
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素敵だと思いました。
とっても素敵なお話に思えたのです。
だから、壮年の歌を聴くと、いつも幸福になりました。
アズも、こんな素敵な歌を歌いたいと思いました。
アズは、壮年のことをもっと知りたくなりました。
観察の対象としてではなく、一人の人間として。
壮年の紡ぐ物語の世界に行きたいと思うようになりました。

羽を隠して、濡れ羽色の髪と瞳の色で、壮年に声をかけました。
壮年は人当たりのよい顔で、こんにちは、と返事をしてくれました。
歌について、話して、陽気に語ってくれたような気がします。
壮年について、話して、のらりと躱されたような気がします。
自分について、話しを振られて、言い淀んだ記憶があります。
会話下手のアズですが、壮年は聞くのも話すのも上手でした。
たのしい時間だった、ことを覚えています。
後に、壮年が異世界からの侵入者と知って、心臓がうるさいくらい鳴ったことを、覚えています。
パパが死んじゃった後で、ママがいなくなった後で、子供も必死でした。
憧れの壮年と話した後で、憧れを捕らえないといけないことで、子供は動揺しました。
討伐するような悪いことをしていないから、保護の形で自分のそばに置いたなら、あの人は無事に過ごせると考えました。
天使としてあるまじき考えが湧くと、内側に仕込まれた🔷が作動して、子供を天使として縛り付けました。
縛られ続けて、子供と天使の思考と感情は、ちぐはぐに切り貼りされて、
自認は天使へ、憧れは執着へ、好奇は消されて。矛盾だらけ、混乱だらけ。
壮年を他の天使達から守りたくて追っていたのに、その理由すら、挿げ替えられてしまいます。
不安定さを強制的に正して、固定された少女型の天使アジュール・プリズム
彼女に残されたのは、壮年と話したい、それだけでした。
壮年が世界を去って随分と経ちました。
少女型は、壮年のことを忘れていませんでした。
フラウィウスで再会した日。
はしゃいで、はしゃぎました。
使命をまっとうしなくてよい世界です。
個人的な関りをしても咎める人がいない世界です。
天使として仕込まれた🔷は、変わらず、作動していましたが。
憧れの壮年と、もう一度会えたことが、うれしかった。
彼が自分の事を忘れてしまっても、でした。
天使は街中で姿を晒すことはありません。しかし、認識阻害をした姿、人間の姿を装うことは許可されていました。
アズは天使の中でも最年少です。
情緒の発達は未熟で、天使としての教育も途中であり、長期入院によって世間の常識にも疎いアジュール・プリズム。
単独行動を許可されていない、籠の中に庇護される天使。任務になれば開け放たれて、対象を追い続ける、無垢なる雛鳥のような、無垢なる天使。
アズの使命は、対象を監視し、追跡し、連行し、場合によっては討伐すること。
幼いアズには、まだ、討伐の使命を果たせません。捉えた対象を、追い込んだ対象を、疲弊させた対象を、先輩へ繋げることが、今のアズの使命です。
範囲は街のみ単独で可、となったある日。
アズは近所の路上で歌う壮年を見つけます。
一日だけではありません。二日、三日。続きました。
「……今日もいる」
高い建物、人口物でできた森。走る鉄の車に、飛ぶ鉄の鳥。
社会は忙しく回っていて、足を止めて歌を聴くような人は、少数派です。
それでも壮年は、いつだって歌っていました。
ここに自分がいると、誰かに知らせるみたいに。
けれども、誰の記憶にも残らないように、目立たないように過ごしていた印象がありました。
声は波となり、街を渡ります。
幼い天使のアズは異世界からの人間の見分け方が分かりません。
パパみたいな暗い色のジャケットを着て、
見たことのない木でできた弦の楽器を使って、
朗々と弾き語りをする壮年が、
この世界の人だと思うには、十分でした。
アズは、壮年から紡がれる世界を覗き見るのが大好きでした。
どこかの知らない世界、どこかの知らない時代の、 どこかの知らない誰かの物語。
壮年の紡ぐ世界の中に迷い込んで、冒険したり、恋の応援をしたり。
「なんて素敵な物語でしょう」
素敵だと思いました。
とっても素敵なお話に思えたのです。
だから、壮年の歌を聴くと、いつも幸福になりました。
アズも、こんな素敵な歌を歌いたいと思いました。
アズは、壮年のことをもっと知りたくなりました。
観察の対象としてではなく、一人の人間として。
壮年の紡ぐ物語の世界に行きたいと思うようになりました。

「こっ、こんにちは!」
羽を隠して、濡れ羽色の髪と瞳の色で、壮年に声をかけました。
壮年は人当たりのよい顔で、こんにちは、と返事をしてくれました。
歌について、話して、陽気に語ってくれたような気がします。
壮年について、話して、のらりと躱されたような気がします。
自分について、話しを振られて、言い淀んだ記憶があります。
会話下手のアズですが、壮年は聞くのも話すのも上手でした。
たのしい時間だった、ことを覚えています。
後に、壮年が異世界からの侵入者と知って、心臓がうるさいくらい鳴ったことを、覚えています。
パパが死んじゃった後で、ママがいなくなった後で、子供も必死でした。
憧れの壮年と話した後で、憧れを捕らえないといけないことで、子供は動揺しました。
討伐するような悪いことをしていないから、保護の形で自分のそばに置いたなら、あの人は無事に過ごせると考えました。
天使としてあるまじき考えが湧くと、内側に仕込まれた🔷が作動して、子供を天使として縛り付けました。
縛られ続けて、子供と天使の思考と感情は、ちぐはぐに切り貼りされて、
自認は天使へ、憧れは執着へ、好奇は消されて。矛盾だらけ、混乱だらけ。
壮年を他の天使達から守りたくて追っていたのに、その理由すら、挿げ替えられてしまいます。
不安定さを強制的に正して、固定された少女型の天使アジュール・プリズム
彼女に残されたのは、壮年と話したい、それだけでした。
壮年が世界を去って随分と経ちました。
少女型は、壮年のことを忘れていませんでした。
フラウィウスで再会した日。
はしゃいで、はしゃぎました。
使命をまっとうしなくてよい世界です。
個人的な関りをしても咎める人がいない世界です。
天使として仕込まれた🔷は、変わらず、作動していましたが。
憧れの壮年と、もう一度会えたことが、うれしかった。
彼が自分の事を忘れてしまっても、でした。