RECORD
ある日の酒場での転機

「ん。こんばんはー……。」
場面は、少々気落ちした様子での入店から始まる。
「こんばんはライム嬢…おや、どうかしたのかね?少々元気が無いように見えるが。」
「ん、ライムちゃんもいらっしゃーい! ……お疲れかな?」
酒場の常連客は、それを心配して声を掛ける。

「疲れた……と、言いますかなんと言いましょうか……」
「する事が、無くなってしまいまして。」
「する事が?……ふむ…」
「んむ?」「する事…」
「山のようにあるぞやる事なんか。乱闘で連勝しつづけたり踏破したり何かを掘ったり……」「……そういう話ではなさそうね」
「することが無くなってしまった?」
「…少し前までは『強くならねば』と、見てるこちらが少々心配になるくらいには意気込んでいたではないか。」

「いくら……いくら強くなったところでどうしようもない事も、あるのです。
私はどうすればいいのか、分からなくなってしまった。」
「……逆に言えば、個人の強さで解決できない悩みですね?」
「酒場お悩み相談室~」
「この世界でする事が無くなるってことは、要するにお前のモチベが尽きてる時だ。何せやろうと思えばいくらでもやることはあるからな。自分が本当にやりたいことは何か、もう一度見返してみるのも大事だぞ」
「その結果、この世界からオサラバすることもあるかもしれないが、そんときは盛大に送ってやろう」

「私は自分の国を……キトルシアを守るための武技を習得するためにフラウィウスに来ました。
しかし……しかし未来は、変わらないようです。
それを知ってしまった時、私には……自分が何をしたいのかすら、残らなかった。」
「……君の故郷で何かあったのか?」
「ふぅむ……え、なんで守れなくなったんだ?」
「…強さは、十分なんじゃない?」
「時間跳躍でもしたのですか?未来を変えようと?」
「単独で強い力を持っていても、覆せない事はある。それこそ………。……いや、うーん…」
「……ふぅむ…」
「確かに力があってもどうにもできないことって世の中たくさんありますからね……テーブルに並んだ料理を残さず食べきるとか……」
「未来な…」
「変えられない未来…か。」「……未来を視た経験なぞ私には無いしなぁ…。」

「……順番にお話するべき、ですね。少し、長くなりますが。」

「ある日の占星、星の導きが『キトルシアの未来に崩壊・破綻・破滅のあらん』と告げました。
戦争の兆し。かつて『姫騎士』と謳われた祖母が居た時代ならまだしも、今のキトルシアに抵抗力は、皆無。
私が、私が誰より強くなることができれば。そう思って縋るように辿り着いたのがこの世界です。」

「ここでの時間は、楽しいものでした。誰かと戦い、武技を学び、ここには色んな出自の、色んな人がいて……
辛さも忘れて闘技に励みました。」

「しかし……気付かされてしまった。それで国の未来が変わる事は無いのだ、と。
いや、心の底では分かっていたのです。ルードさんの言葉は、きっかけに過ぎない。
私は分かっていて無為に剣を振るっていたのを、自覚してしまった。」

「する事が無い、と言ったのはそういう次第です。強くなっても仕方がないならば、私はこれから……どうしよう。」
「皆無というのもまたなんとも」「戦争とは、平時の準備が試される時……という言葉があるゆえ」

「本当ですよ。『私は貴方を攻めないので貴方も私を攻めないでください』なんて綺麗事が通じる世界ではない。
今更、もう遅いですが、ね……」

「こんな話を聞かせてしまって、申し訳ない。」
「なに、酒飲み達の意見が参考になるかは分からないけれども。悩みを吐き出したりするのも大事な事。そう気に病む必要はないんじゃないかな」
「…まあ、そもそも。国規模の話で、個人の強さを解決策にしようというのが、おかしなはなしで」
「…それでも、どうにかしたいのなら、お店にある、異世界渡航券を渡して、一緒に来て欲しい、と。協力者を募るしか、ないんじゃない?」

「なはははは!違いありません!いったい何の剣技を学べば軍隊に匹敵する戦力を得られるというのか!!」
まるで、自分自身に向かって言うかのように。笑う。
「魔法を伸ばしても、ここで身につくのは単独戦の技術がメイン。…代表者と決闘して終わるような戦争でもない、でしょ?」
「まあ、私は、戦争には協力しないけど、ね。…ぁふ」
「ふむ、天使の彼が。」
「…確かにライム嬢の国はいつか滅んでしまうのかもしれない、私には分からないが。」
「だが間違いないのは此処で過ごした時が決して無意味ではないということだ。」
「…過ぎ去った過去も思い出も、無くなった者たちも、何一つ無駄なことなどない。
それらに意味を与えるのは今を生きる我々だろう?」
「『だから最後まで諦めずに足掻け』…みたいな綺麗事は言わないが。」
「まぁ要するに、『努力が無意味だったなどと寂しいことは言わないでくれたまえ』……ということだけ伝えさせてくれ。」
「…うん、何の解決にもなってないな、すまないライム嬢。」

「ルヴァールさん……『意味を与えるのは今を生きる我々』……」
「努力を無為と嘆くのではなく、それをどう活かすか……」
1000年生きる吸血鬼の言葉だ。重みが違う。
「まぁ、聞いた感想はガキの我儘だな。ホントに救国を成しえたいのなら、他所様にもっと交渉を持ちかけるべきだし、それが無理ならアプローチを変えるべきだ。例えば民を一人でも逃がす施策を考えるとかな。『こんな悲劇がくるかもね』に対して『自分の力で頑張るぞ!』は無理があるぞ、お前。夢見すぎだ。もっと脳みそを回せ。お前にできることはまだ他にあるだろうが」
「視点を変えろ。話はそれからだ」
「はは、やはり同じ答えになりますか」
「国が沈む、とわかっているのだから、まず何をするかを明確にするべきです。守るべきは国体か、国民か、もありますし」
「そういうことは王様とかが考えているでしょう。貴方がすべきは、本国だけでは得られない解決策や緩和策を探すこと、ではないですかね」
「何せここ、色々な方が集まっていますからね」
「解決とまでは言わずとも、何か変えられる程度のものは見つかるかもしれませんよ?」
「ライムも色々大変そうだねっ。王女さまともなると責任も重いんだろうし」
「…よく分かってないけど、無理に救うんじゃなくて1度滅ぼしきってからもう一度建て直すのはダメなのか?政治は知らんから適当言ってる気がするが」

「『ホントに救国を成しえたいのなら、アプローチを変えるべき』私に『できることはまだ他にある』……」

「そう、そうです……ね!違いありません。私はただ、駄々を捏ねていただけに過ぎない。『夢を見すぎ』、ごもっともです。
一人で強くなってどうこう、ではない。私は私にできる全てを考えるべきです!」
「『協力者を募る』『国体に囚われず国民を護る事を考える』『解決ではなく、緩和策を探る』……まだ、この場所でできることはいくらでもある!!」
「というか王女がこんなとこほっつきあるくなよ。はよ帰れ。民が今も苦しんでるぞ~」
「私は逆だと思いますがねぇ」
「王女ができること、って、王様がとっくに実施しているか、できるのではと」
「本国では不可能な解決・緩和策を持って帰れる可能性があるのがここなのではないかと」

「まぁ実を言うと、追い出されたようなものなのです。沈みゆく船に最期まで乗船し続ける必要などない、と。」
「しかしだからこそ、私はその船……は無理でもその乗客を救い出す道を探すため、今ここにいるのです。」
「ああ、亡命中なわけか~それならわからんでもないね。『ここ』に救いがあるとは思えないけど~
確かここ、別世界へ移動するアテがあるんでしょ?それでどこかまた助け求めにいくのはありかもね~」
「帰るまでに滅びてなきゃい~ね」

「帰ったら既に滅びてた場合の対応策も準備しなくちゃですね!」
「んむ……これは私の故郷の話ですがぁ……」
「とても強い、強い人々がいたのです。強さに任せて、略奪を繰り返すことを良しとする人々が……奪われた民達は多く、様々な資源や命が元あった地から持ち去られていきまして……しかしある時、立ち上がった者がいたのです 『皆で力を合わせて、この状況を変えよう』と。
いくつもの"星"の民が団結して、略奪者に対抗し始めて……やがて彼らの故地である星に逆侵攻するまでになりました……」
「……一つの星だけではよくて守るに精一杯だった。しかしどんな内容であれ、使えるカードをかき集めれば時には大きな力になることもあると、そういうことですねぇ。たぶん」

「ふむふむ……!使えるカードをかき集めて……なるほど……!」

「話を聞いてくださった皆様!助言をくださった皆様!!本当に……ありがとうございました!!!
私はまだ、腐っている場合ではなかった!!私ライム、第一王家の誇りにかけて今私にできることを見つめ直し、改めて精進して参ります!!!!」
Eno.366:シトラス・オーランティフォリアはジャンボピザを注文した。でっっっかいピザがやってきた!チーズやサラミを始めとした大量の具が、通常の一回りも二回りも大きな生地の上に盛られた贅沢なピザだ!
Eno.366:シトラス・オーランティフォリアはジャンボピザを注文した。でっっっかいピザがやってきた!チーズやサラミを始めとした大量の具が、通常の一回りも二回りも大きな生地の上に盛られた贅沢なピザだ!
Eno.366:シトラス・オーランティフォリアはからあげ舟盛りを注文した。舟の容器に盛られたからあげがやってきた!大馬鹿サイズの舟型容器には、大量の揚げたてジューシーなからあげ達が盛られている……!
Eno.366:シトラス・オーランティフォリアはからあげ舟盛りを注文した。舟の容器に盛られたからあげがやってきた!大馬鹿サイズの舟型容器には、大量の揚げたてジューシーなからあげ達が盛られている……!

「今日は清掃まで私の奢りですっ!!皆さん好きなだけ頼んでくださいね!!」
「元気になったようでよかったゆえ」「知恵くらいなら貸すので頑張ってくださいね」
「あはは、ライムちゃんが元気になってよかった。ルヴァールクンもアカシクンも、皆も励ますの上手で安心安心」
「元気が出たみたいで何よりだ。」「……とはいえ、この時間帯にこの量のピザと唐揚げは少々重たいが。」
「……流石に持ち帰りコースじゃないかなぁ…」
その一連の話を終始、何かを考え込むように聞き入る妖が一体。

「あっ!牛魔さん!ビール、お注ぎしますよ!!
…………?どうかしました?」
「ええの〜?ほな頼んじゃう!!」
「ただの考え事!あとライムちゃんの未来が色々あったとしても幸せになったらええな〜って思っとったで」

「ありがとうございます!国……が例え守れないとしても、別な物を守れるよう、今はもうちょっと頑張ってみようと思います!!」
「成長あれど抱えられるもんには限りあるしその考え充分ええな!立ち直ったんならライムちゃんは失うもんばっかり考えないようにしとき〜〜」

「でひゅにゃわわわわわ!!」
いつも通り散々撫でられるライムだったが、その表情には笑顔が戻っていた。