RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

EP12.5



◆出来事


揶揄われること最近多い気がする。どうして。
いや、いいけどな。いいけど。

………
スキンシップは減らした方がいいんじゃねえかなァ〜……?



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※以下、再放送




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中央都市セレシオンにて。

ハーツ・グランはその手を引かれている。
いつも歩く路地には、整列した建物と、モブにしかすぎない平和的な人々と、ホールの天井が見えていた。今日の天井に映し出された空は雲のある晴れの空。
つるりと輝く文字通りの青天井。少し日差しは強めに調整されている。
ピカピカの光に照らされて、白い建物も灰色の建物もいつもより輝いて見える。
この街は光に満ちていて、その中を人々は穏やかに暮らしていた。
道路には旧時代の車に値する乗り物が走っている。
人々は街を歩行する。
彼女たちはかけていた。
インカローズは彼女を引っ張っていた。



「──ふふ、どちらに行く?」



「あなたの普段の生活を見せて欲しいなぁ」



引っ張ってるのはインカローズ。けれども、道案内をするのはハーツだった。
ふわふわと甘い声色で言葉を紡ぐ彼女を、振り回すように振り回されるように。
本当にたいしたことないけれど、それでもいいっていうから。
何せ目を離したら、何をするかわかるまい。
ハーツはそれに従って、普段の生活を巡るように。

自分の生活圏を教えるのは軽率なことだった、と、後に思うけれど。
その後、生活圏内の襲撃、なんてものはなかった。


「………」



インカローズは桃色の瞳で世界を見つめている。

君の居住区から徒歩圏内のディスカウントストアを見た。──通信販売が主な昨今である。よっぽど急に必要になりそうなものしかない。
電子通信機器のショップを見た。──新作のカバーは売り切れている。どちらにせよ買い換えるつもりはない。
美味しいケーキ屋さんの前を通る。──インカローズは目を輝かせたが、そんな通貨なんてなかった。
ハーツは味を知っている。口にして話が弾む。

お互いにお互い、組織の概要は一切口にしない。
その代わりに、移動するたび、普通の少女の会話が弾むようになっていた。
たわいのない話題が積み重なっていく。

ハーツは、拍子抜けしていたけれど。
ふわふわとした可愛らしい女の子の様子を戦闘中も見せていたけれど。


──その印象が変わらない。よりはっきり、輪郭が浮かんだだけだった。
戦闘中に薄々と感じてたことの。





──そうして2人は公園までに辿りついている。
昔からそこで子供は遊ばされているらしい。
今は子供はいないけど。あんまりここの公園は、子供が来ないんだとはハーツの話すところだった。


「……インカローズちゃん、どうして私を案内させたの?」



「…私ねえ、あなたたちがどうやって暮らしてるか知りたかっただけだよお?」




「…?」



「私は、あなたたちとは違う生活を送ってるからねえ」




違う、とハーツは口から言葉を漏らした。
ちがう。違うってなんだろう。
だって、目の前にいるのは、自分の年頃のそう変わらない、黒のセーラー服を身に纏った、ただの少女だ。
彼女が人間であることは、秘密結社の研究でもわかっている。
ただ、雷を操る力をその身に宿しているだけで。
あとはただの人間の少女なんだってこと、たった数時間の会話でもわかってしまった。
アーカイブから引っ張られてきた動画を見ている。
お気に入りの作品がたくさんある。



ハーツ・グランは浅はかである。



「…違うって、どんな生活かな」



「だってあなたにも、家族がいて、学校があって、そうやって暮らしてるんじゃないの?」



けれど、ハーツ・グランはこの世界の常識を話しているだけなのだ。
それしかないから。

それしかない。異端はお前。


「なんで世界の破壊を目論むのかな、あなたたちの、組織は」





「……友達には、なれない?」




簡単にいうなよ、ひなたの人間が。知ってるくせに。知ってるくせに。知ってるくせにさ。

そんなセリフが大っ嫌い。

インカローズの薄い唇が震えている。
無意識に、髪飾りのリボンのふちを握っていた。

…唇の震えをやめている。呼吸をしている。
微笑んで見せた。眉を下げて、困ったように穏やかに。
悲しそうに笑ってみせる。それはできないのというような表情を見せつける。
けれど髪先からぱちりぱちりと弾ける音が聞こえている。
雷が漏れ出ているのを感じている。どうか写さないで。


言葉が飛び出す。



──ごめんね、それはできないなあ馬鹿なこと言うなよ




2人きりのランデブー。
たったその日だけの通わせ合い。
時刻は夜をさし示して。

またねもなくお別れをした。




【nx話より 抜粋】

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「あの話めちゃくちゃ好きなんですよね、女の子2人の動きがよくて」




「脚本がいいですよ、 わかりたい彼女とわかりあわない2人の最後がほんとに……」





セレインてえてえ………




「インカローズ役の子、何話か前から縁起良くなったんですけど、この回の演技が最高潮でしたね」




以上、街中の声。一部抜粋。



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神は死んでいる。
神は終わっている。
神は旧時代の遺物である。
神は確実性のあるものへと据え置かれた。


神は私たちを愛さない。
神は私たちを閉じ込める。


──星の声が遠くから聞こえる。


星はただ見るばかり。



デウスエクスマキナは死んだ都合の良さは起こらない




──ひっくり返してくれよ。