RECORD

Eno.48 Siana Lanusの記録

├経過02



私を庇うようにそいつは私の左前に出て、そのまま斃れた。
私が回避をとれない状態だったのは事実で、
それを喰らっていたら致命傷だったろうことも事実。

けれども庇われた事にまず一つ憤りを覚えて、
それを齎したものたち───勇者たちに、それより強い憤りを覚えた。

ここで後退していたら、何かが変わって居ただろうか。
嫌いで煩くて、ムカつくばかりのあの女の、躯を蹴り飛ばして、
前に進んだのが、敗因だったのだろうか。





*





女の甲斐甲斐しい世話のお陰だろうか、
痛みと熱は変わらないが、
意識が浮上する頻度は少し上がって行っていた。

相変わらず頭がはたらかず、
女の言っている事のほとんどが把握出来ないが、
恐らく、大怪我を負ったところ彼女に拾われたのだろう。

漠然とそれだけ認識したが、彼女の姿をたしかめることはおろか、
声を出すことすらもままならない。
身体の表面や頭は焼けるように熱いというのに、
身体の芯は酷く寒く、力がひとつも入らない。
首筋に死神の指先が常に掛かっているような感覚だ。

語りかけてくる女の声を少しずつ拾い上げた結果、
一週間も意識が戻らなかったらしい。
その状況に至った経緯を思い出せるほど、
まだ頭に余裕はなく、寸を生きるので精一杯であった。

「──今あまり村に物資が無いし、
 街から腕のいい神官も中々呼べなくって……。
 辛いと思いますけど、どうか、頑張ってください……」



女は私の意識が戻った時はほとんど傍に居た。
薬茶を飲ませ、頬を撫でる冷たい手の感触は心地よくて、
時折その手は痛みを和らげてくれた。



…………


そこが境会である事にまだ思考が行き着いて居なかった事は
この時点では、幸いだったのだろう。
例え気付いていたとして、出来る事などきっとなかっただろうが。