RECORD

Eno.34 シャルティオの記録

【0-20 「お前も敵だ」】


【0-20 「お前も敵だ」】

  ◇

 それから。
 ギャレットやキィランたちによって、
 葬儀と即位式が執り行われた。

 シャルティオは正式に魔導王国の王となることが認められ、
 女王の死で悲しみに包まれていた魔導王国を
 導く星だと期待された。

 確かに痛みはある。
 心はずっと血を流し続けている。
 それでも日々が目まぐるしく続いていくのなら、
 前を向いて頑張らなくちゃならないんだ。

 それでも、ひとつ、知りたいことがありました。
 だからその日、アンディルーヴ国王となった
 シャルティオは、キィランを個人的に呼び出した。

「……どうされましたか、国王陛下」
「……これまでみたいに、
 『シャル様』って呼んでくれたら嬉しいんだけど。
 ここには今、“俺”とキィルしかいないでしょ?」

 一人称を変えよう、弱く見られないように。
 心を鎧おう、これ以上痛まないように。

 シャルティオは、尋ねたのだ。

「……キィルは、兄さんが
 やろうとしてたこと、知ってたの?
 兄さんが母さんを殺そうとしてたこととか……
 兄さんが俺を王にしようとしてたこととか……」
「……はい、全て存じ上げておりました」

「…………そっか」


 そうか。

「……知ってても、キィルは止めなかったんだ。
 キィルもそれが“最善”だと思ってた訳?」


 いつも隣に居てくれるあなたを、
 信じて良いのか分からなくなっていた。
 お願い、信じたいから否定しておくれ。

 心の中に芽吹いた疑念の種を、
 早いうちに消してしまいたかったんだ。

 キィランの、返答は。

「……はい。私は、フェン様の行動が
 正しいと思っておりますよ。
 たといそれでシャル様が傷付かれても、
 それは必要な傷だったのだと」


「……キィルも、ぼくの、敵なの?」


 否定しておくれよ。
 シャルティオの声は、震えている。

「キィルも、あんな兄さんの味方になるの?」


 否定しておくれよ。
 返される言葉は、

「…………えぇ」


 肯定。

「シャル様もいつかは分かる日が来るでしょう。
 フェン様がどれだけ貴方様を愛しておられたか、
 フェン様の為された自己犠牲の意味を」


「うるさいっ!
 うるさいうるさいうるさいっっっ!」


「兄さんは最初から僕を騙して嗤うつもりで近付いたんだ!
 そして僕の全てを壊して嗤ってたんだ!
 愛だ? 自己犠牲だ? あんなの……!
 ただの身勝手だろッッッ!」


 シャルティオは、叫んで従者を否定した。

「そんな兄さんの味方なら──
 キィルは僕の敵だッッッ!!!!!


 従者から距離を取る。
 あれだけ優しく接してくれたこの従者を、信じられない。
 ならば ぼくは だれを しんじれば よいの?

「……何でみんな、僕の敵になるの。
 母さんも兄さんもキィルもさ……
 何で……どうして……?」


 分からない、分からない、分からない。
 誰よりも信じていた次兄フェンドリーゼに裏切られたから、
 心に芽吹いた不信の種は大きく葉を広げて。
 涙が再び、ぽた、ぽたり。傷が増えてく。消えない、消えない。

 キィランがそんなシャルティオに近寄り、
 ハンカチがボロボロになるのも構わずに毒の涙を拭った。

 シャルティオは抵抗しようとしたけれど、
 華奢に見えて力の強いキィランには逆らえない。
 されるがままになっていた。

 青と黄金。夜明けのツートーンが、
 シャルティオを見ている。

「……ならば私はこう言いましょう。
『私は、シャル様の国が見たいから、
 シャル様を利用しようとした』」


「はい、従者も元主人同様、悪い奴ですぅ。
 でも今の私、シャル様の方の
 従者なんですけれどもねぇ」


 おどけるような口調。

「……今は信じられずともよろしい。
 それでも私はシャル様の味方であると何度でも言いますし、
 シャル様に寄り添い続けますよ──我が主人あるじ


 シャルティオは優しく抱きしめられた。
 それなのに目の前の彼を信じられなくて、
 否定したくなる己。自己嫌悪で吐きそうになる。

 キィルを疑いたくないのに、
 あのフェンドリーゼひとごろしを肯定するから。

「…………」

 しばらく、そうしていた。
 そうしたらシャルティオの涙は止まり、キィランが身を離した。

「……それでは、私はひとまずこれにて」

 去っていく従者の背を、
 シャルティオはただぼんやりと見送った。