RECORD
Eno.34 シャルティオの記録
【0-21 嵐のあとに】
──視点:キィラン
◇
シャルティオが王になったことで、
キィランは己の力を隠す必要がなくなった。
この国は魔導王国で、彼は魔法破壊の破術師だ。
魔法主体のこの国に於いて、彼のその力
は真っ先に排除されねばならぬ類のもの。
故にこれまでの彼は己を殺し、緊急時以外は
「非力な従者」を演じ続けることで己を守ってきた。
しかしその立場が「国王の従者」となれば話は違う。
「…………フェン様は」
シャルティオが休んでいる深夜。
もういない元主人をキィランは想う。
国王の従者が強い人物ならば、
国王の命を狙うことは難しい。
キィランの破術師の力は抑止力になる。
かつて周りに恐れられ排除されかけたその力は、
今の立場ならば確かな武器となる。
「第二王子の従者」では駄目だったけれど、
「国王の従者」ならば。
「……“俺”のことも、自由にしてくれてんだなァ」
丁寧な口調をかなぐり捨てて、
本来の口調でひとり、ごちた。
あの嵐は、フェンドリーゼの愛する
シャルティオとキィランの檻を破壊したのだった。
「……でも、その場にフェン様はもういねェの。
俺とフェン様とシャル様の3人で
幸せに過ごせたのなら……どれだけ良かったか」
叶うことのないゆめものがたり。
まさにそれはエソラコト。
世界が平和になっても。
誰よりも動いてくれた貴方は、
もういないのだ、会えないのだ──。
キィランは理解している。
誰かがあの女王と第一王子を殺さなければ、
シャルティオが解放されることはなかったこと。
あのままでいたらシャルティオは、
王宮の中で密かに朽ち果てるしか未来がなかったこと。
或いはキィランが少し目を離した隙に、
今度こそ殺されていたかも知れないこと。
キィランでも女王は殺せた。
キィランならば女王の光魔法も怖くない。
実際、フェンドリーゼから計画を聞いた時は、
『私がやります』と言ったものだけれど。

なんて返された。
フェンドリーゼはいつでも
シャルティオの隣に居られる訳ではない。
シャルティオを守りたいのなら、
キィランこそが残るべきなのだと
フェンドリーゼが言っていた。


黙り込んでしまったことを、覚えている。
魔法の通じないキィランはかつて、
暴力によって殺されかけた。
そこを通りかかったフェンドリーゼに
救われたことで、今の自分がある。
キィランの魔法破壊の力は確かに強いけれど、
破壊するべき魔法が使われないならば
己の身ひとつで何とかするしかない。
応用範囲の広い風魔法を
自在に操るフェンドリーゼの方が、
逃げる場面では有利なのである。
でもそうしたら。
フェンドリーゼもシャルティオもキィランも
生きていられるけれど、
そうしたら、フェンドリーゼは、その立場は。
不安を口にしたら、

笑っていた主人。

それは、究極の自己犠牲。
誰よりも身勝手で自由なフェンドリーゼが成したこと。
大切を助ける為に、大切が慕っていた人物を殺すこと。
その果てに、大切の前から永遠に姿を消すこと。
結果、大切から恨まれようと憎まれようと構わないのだと彼は語る。

けれど、そうしたら、あなたは。
言いたいことはあったけれど、
その時のキィランは全てを呑み込んだのだ。
そんな主人だからこそキィランは仕えた。
その自由さと身勝手さに振り回されながらも、
それを眩しいと思っていた。
彼が最後に成したこの嵐も、
彼らしいと言えば彼らしいものだった。


もういない主人を、キィランは想う。
嵐のあとには花が咲く。
嵐をもたらした彼も、
遠い何処かで幸せであれと祈りつつ──。
これが、“最善”なのだ。
胸の奥、消えない痛みが熱を持っていた。

片手にナイフ。
伸ばしてゆるく結んでいた髪を切り落としましょう。
切り落としたそれを、窓を開けて空へ飛ばした。
優しい風が、結んでいたリボンごと彼の髪をさらっていった。
前へ進もう、痛みはあるけれど。

【0-21 嵐のあとに】
【0-21 嵐のあとに】
──視点:キィラン
◇
シャルティオが王になったことで、
キィランは己の力を隠す必要がなくなった。
この国は魔導王国で、彼は魔法破壊の破術師だ。
魔法主体のこの国に於いて、彼のその力
は真っ先に排除されねばならぬ類のもの。
故にこれまでの彼は己を殺し、緊急時以外は
「非力な従者」を演じ続けることで己を守ってきた。
しかしその立場が「国王の従者」となれば話は違う。
「…………フェン様は」
シャルティオが休んでいる深夜。
もういない元主人をキィランは想う。
国王の従者が強い人物ならば、
国王の命を狙うことは難しい。
キィランの破術師の力は抑止力になる。
かつて周りに恐れられ排除されかけたその力は、
今の立場ならば確かな武器となる。
「第二王子の従者」では駄目だったけれど、
「国王の従者」ならば。
「……“俺”のことも、自由にしてくれてんだなァ」
丁寧な口調をかなぐり捨てて、
本来の口調でひとり、ごちた。
あの嵐は、フェンドリーゼの愛する
シャルティオとキィランの檻を破壊したのだった。
「……でも、その場にフェン様はもういねェの。
俺とフェン様とシャル様の3人で
幸せに過ごせたのなら……どれだけ良かったか」
叶うことのないゆめものがたり。
まさにそれはエソラコト。
世界が平和になっても。
誰よりも動いてくれた貴方は、
もういないのだ、会えないのだ──。
キィランは理解している。
誰かがあの女王と第一王子を殺さなければ、
シャルティオが解放されることはなかったこと。
あのままでいたらシャルティオは、
王宮の中で密かに朽ち果てるしか未来がなかったこと。
或いはキィランが少し目を離した隙に、
今度こそ殺されていたかも知れないこと。
キィランでも女王は殺せた。
キィランならば女王の光魔法も怖くない。
実際、フェンドリーゼから計画を聞いた時は、
『私がやります』と言ったものだけれど。

『ダメだよ、キィル。
これは、俺にしか出来ないことなの。
だからキィルはシャルのことよろしくね!』
なんて返された。
フェンドリーゼはいつでも
シャルティオの隣に居られる訳ではない。
シャルティオを守りたいのなら、
キィランこそが残るべきなのだと
フェンドリーゼが言っていた。

『それに……俺なら風魔法を上手いこと応用して
国中から追手が来ても撒ける自信があるけど……。
魔導王国が全力で追い掛けてきたら、
流石のキィルでも逃げられないでしょ?』

『俺はね、キィルのことも大事なの。
キィルのことも失いたくないの!』
黙り込んでしまったことを、覚えている。
魔法の通じないキィランはかつて、
暴力によって殺されかけた。
そこを通りかかったフェンドリーゼに
救われたことで、今の自分がある。
キィランの魔法破壊の力は確かに強いけれど、
破壊するべき魔法が使われないならば
己の身ひとつで何とかするしかない。
応用範囲の広い風魔法を
自在に操るフェンドリーゼの方が、
逃げる場面では有利なのである。
でもそうしたら。
フェンドリーゼもシャルティオもキィランも
生きていられるけれど、
そうしたら、フェンドリーゼは、その立場は。
不安を口にしたら、

『俺のこと心配してくれるのー?
俺なら大丈夫だよ! 俺はさ、自由の申し子だから!
国から離れたって平気、どんな所でも生きていけるよ!』
笑っていた主人。

『心の欠けている俺なら、
母さんを殺しても何とも思わないよ。
そういうあれそれもあって、これは俺にしか出来ないことなんだ。
オーケー、キィル?』
それは、究極の自己犠牲。
誰よりも身勝手で自由なフェンドリーゼが成したこと。
大切を助ける為に、大切が慕っていた人物を殺すこと。
その果てに、大切の前から永遠に姿を消すこと。
結果、大切から恨まれようと憎まれようと構わないのだと彼は語る。

『恨むとか憎むとか、心の欠けてる俺には分からないし!
俺はシャルにとっての邪悪になって、
魔導王国から消えるのさ!』
けれど、そうしたら、あなたは。
言いたいことはあったけれど、
その時のキィランは全てを呑み込んだのだ。
そんな主人だからこそキィランは仕えた。
その自由さと身勝手さに振り回されながらも、
それを眩しいと思っていた。
彼が最後に成したこの嵐も、
彼らしいと言えば彼らしいものだった。

『それでも俺は……
シャルもキィルも、愛してる!』

「…………フェン様」
もういない主人を、キィランは想う。
嵐のあとには花が咲く。
嵐をもたらした彼も、
遠い何処かで幸せであれと祈りつつ──。
これが、“最善”なのだ。
胸の奥、消えない痛みが熱を持っていた。

「…………さようなら、
我があるじ」
片手にナイフ。
伸ばしてゆるく結んでいた髪を切り落としましょう。
切り落としたそれを、窓を開けて空へ飛ばした。
優しい風が、結んでいたリボンごと彼の髪をさらっていった。
前へ進もう、痛みはあるけれど。

「…………」