RECORD

Eno.222 ████の記録

危ないよ







「危ないよ、ダウンハイヴ」
「何が?」

───何を言われているのか分からない。

「君の在り方が危ないと言っているんだ」
「藪から棒にも程があるだろ。アンタはいつも話が突拍子無さ過ぎる」
「それは失礼」
「……で、どういう意味なんだ」

───何を言われているのか分からない。

「君は仕事が終わるたびに記憶を失うだろう」
「ああ」
「覚えている時の自分を認知できない」
「ああ」
「記憶喪失中に別人みたくなる現象があるけど、君の場合は常時その状態だ」
「そうだな」

───何を言われているのか分からない。

「つまり今ここに居る君は、記憶を保持している時の君とは違う君ということになる」
「まあ言い換えればおおむねそう」
「だから危ないんだよ」
「何が?」

───何を言われているのか分からない。

「記憶を保持した己を失うのは、自己がそこで終結していることを意味する」
「あー、うん」
「言うなればゲームのライフストックみたいなものだろう?」
「まあそうね」

───何を言われているのか分からない。

「君は仕事が終わるたびにライフストックを一つ減らしている」
「残機は無限だろ俺の場合は。失ってるのは記憶だけだ。死んでるわけじゃない」
「違う。そうじゃないよダウンハイヴ」

───何を言われているのか分からない。

「ダウンハイヴ。命というのは一人につき一つしか与えられていないんだ」

───何を言われているのか分からない。

「擦り減るんだよ。仕事が終わるたびに君は摩耗する」
「何が減るってんだ」
「君自身が」

───何を言われているのか分からない。

「君は一つ仕事が終わるたび、自分の屍を一つ積み上げているんだ」
「死んでない」
「肉体的にはね。でも精神は違うだろう」

───何を言われているのか分からない。

「地続きの人物記憶が無いのは死んでいるのと同意義だよ」
「ちが、」
「それじゃ君、前シーズンでのフラウィウスの出来事を覚えているか?」
「当たり前だ。出した戦功だって詳細に記憶してる」
「誰と戦ってどんな言葉を交わした? 何を思った? 何を感じた?」
「それは、覚えてないけど」
「その写真は誰から貰ったんだ?」
「…………、」

───何を言われているのか分からない。

「ダウンハイヴ、君はこれまでに何回死んだんだい」









数えられない。分からない。








「羨ましいよ。前の俺・・・が」


「こんなに手帳に詳細に書き連ねるほど、
 奴にとって素敵な出会いがあったんだろう」


「記憶喪失がすなわち人格の死だとするなら。
 前の俺はさぞかし満足して死んだに違いない」


「……できれば俺もそう在りたいね」