RECORD
Eno.48 Siana Lanusの記録
圧倒的不利であった。
個々の力量で言えば恐らく、自分たちのが勇者より勝っていた。
私の力が6で、あの女───キディアの力を7とするなら、
勇者は4で、その仲間も同程度。
けれどもあちらは数の利を活かし、こちらの不得意を攻める形で優勢を取った。
対人戦闘に慣れていない勇者の動きを聖騎士がカバーし、
合間に弓矢を放つ射手が居り、魔法を放つ術者が居る。
キディアも私も近接戦闘は得意だが、遠距離戦に対抗する手段は多くない。
普段であれば後衛がつくのだが、この状況にそこまでの人員は居ない。
どうにか噛み付いてはいたものの、じりじりと追い詰められて行った。
即席で用意した武器はもうほとんど棒きれに成り果てて、
あとあるのは己の肉体と護身用のナイフ程度。
炎の魔法かで焼かれた皮膚が痛むが、その程度で立ち止まっては居られない。
まずはやはりあの魔術師から仕留めなければならない、とナイフを取り出して
攻撃の隙を見て投げた時、丁度投げる為に手を振り抜いたところで、
上段から騎士がその細剣を、私に目掛けて振り下ろし───。
*
死神が力を強めたかのように、息をするのもままならない。
全身の感覚は遠くて、凍りそうな寒気の中、どうにか呼吸を繋ぐのが精一杯であった。

騒ぐ女の声がやけに遠くて、
ばたばたと音を鳴らしたそれは、誰かを呼んでいるようだった。

ばん、と大きな音の後、聞き慣れない男の声。
誰かの近付く気配の後に、冷たい感触が口元に触れた。
とろりとした液体だった。
詰まって通るところも無いと思われた喉を、それはするりと通り抜けて行く。
次には息苦しさが和らいで、冷えきった芯をじんわり温められるような心地がして、
頬を汗が滑る感覚が、やけに明瞭だった。
--
少し長い息を吐いては、瞼を開く。
相変わらず視界はぼやけるが、いつもよりちゃんと輪郭が見えた。

人の良さそうな女───シスターが、
私の様子を見ては安堵したように長い息をひとつ。

空の瓶を持った男──司祭だろう男は、
穏やかに笑っては私の視界を隠すように手を置いた。

その手が冷たく感じるのは、私の体温が高いからなのだろう。
けれどその手に柔らかい温かさを感じて、
暗闇に導かれるままにまた意識が落ちていく。
神、と。
聴こえた言葉を少しだけ口の中で繰り返して、
けれどもなにを思考するよりも、暗闇の方が早かった。
*







├経過03
圧倒的不利であった。
個々の力量で言えば恐らく、自分たちのが勇者より勝っていた。
私の力が6で、あの女───キディアの力を7とするなら、
勇者は4で、その仲間も同程度。
けれどもあちらは数の利を活かし、こちらの不得意を攻める形で優勢を取った。
対人戦闘に慣れていない勇者の動きを聖騎士がカバーし、
合間に弓矢を放つ射手が居り、魔法を放つ術者が居る。
キディアも私も近接戦闘は得意だが、遠距離戦に対抗する手段は多くない。
普段であれば後衛がつくのだが、この状況にそこまでの人員は居ない。
どうにか噛み付いてはいたものの、じりじりと追い詰められて行った。
即席で用意した武器はもうほとんど棒きれに成り果てて、
あとあるのは己の肉体と護身用のナイフ程度。
炎の魔法かで焼かれた皮膚が痛むが、その程度で立ち止まっては居られない。
まずはやはりあの魔術師から仕留めなければならない、とナイフを取り出して
攻撃の隙を見て投げた時、丁度投げる為に手を振り抜いたところで、
上段から騎士がその細剣を、私に目掛けて振り下ろし───。
*
死神が力を強めたかのように、息をするのもままならない。
全身の感覚は遠くて、凍りそうな寒気の中、どうにか呼吸を繋ぐのが精一杯であった。

「───?!しっかりしてくださっ……
し、神父さま───!! 」
騒ぐ女の声がやけに遠くて、
ばたばたと音を鳴らしたそれは、誰かを呼んでいるようだった。
「───行商人が──
ポーションを───、──低級───」
ばん、と大きな音の後、聞き慣れない男の声。
誰かの近付く気配の後に、冷たい感触が口元に触れた。
とろりとした液体だった。
詰まって通るところも無いと思われた喉を、それはするりと通り抜けて行く。
次には息苦しさが和らいで、冷えきった芯をじんわり温められるような心地がして、
頬を汗が滑る感覚が、やけに明瞭だった。
--
少し長い息を吐いては、瞼を開く。
相変わらず視界はぼやけるが、いつもよりちゃんと輪郭が見えた。

「……ぽ、ポーションってやっぱり凄いですね?!
良かった〜……ほんとに良かった…………」
人の良さそうな女───シスターが、
私の様子を見ては安堵したように長い息をひとつ。

「低級じゃやっぱり効果は薄いね……。
でも少し回復したようで良かった、
色々と運が良かったね、君」
空の瓶を持った男──司祭だろう男は、
穏やかに笑っては私の視界を隠すように手を置いた。

「──君が僕たちのもとに辿り着けたのは、きっと神のお導きだからね。
手負いの君を放り出したりはしないよ。
だから、大丈夫。ゆっくり休んでくれていいよ」
その手が冷たく感じるのは、私の体温が高いからなのだろう。
けれどその手に柔らかい温かさを感じて、
暗闇に導かれるままにまた意識が落ちていく。
神、と。
聴こえた言葉を少しだけ口の中で繰り返して、
けれどもなにを思考するよりも、暗闇の方が早かった。
*

「…………眠ったみたいだね、
いや、運良く行商人が通って本当に良かったよ」

「ええもう本当に…………今度こそ死んじゃうんじゃないかと肝が一生分冷えましたよ!!
……それで、街の神官さまは来れないみたいですか?」

「あちらも人手不足で、中々ね。
邪教騒ぎのせいで何人も亡くなってしまったみたいだから」

「う〜〜〜〜ん、この村は小さいからあまり治療にも療養にも向いてないし、
だからと言って他の村街にこの子を連れてくのは……」

「馬車に乗せるのも今は難しいだろうしね、
とりあえず動けるようになるまでは、ここで世話するしか無いよ」

「ですよねぇ……、
……そういえば行商が来てたなら新しい包帯は?!」

「あ」

「忘れてたんですか?!もー!!
洗って使い回してるけど限界があるんですから!
次街に行った時には絶対買ってくださいねぇ?!」