RECORD

Eno.285 ウィンター・ザ・リグレットエッジの記録

遠い日の話+2

呆然としたまま捕まったわたしは、拘束された。
緩く。丁重に。傷をつけないように。大切な物を扱うかのように。
ただ肩に手を置かれているだけ。腕に手を添えられているだけ。
2人の電子精霊の実体が左右からわたしを抑えている。
1人の電子精霊の実体が正面に立って悲しげに微笑んでいる。

「ごめんなさい、ウィンター。少々手荒でしたか?」

質問に答える気力すらない。転がったナイフがゆっくりと消え、
鞘と言える異空間に収まるのを感じた。
この緩い拘束相手なら、異空間から手元にナイフを出して
暴れれば3人は殺せるだろう。でも、何の為に?
3人殺せば新しく3人出てくるだけだろうに。
殺しきったとて、もう守るものは何一つとして残っていないのに。

「あなたがたの研究について、私達は把握しています。その内容も。
 あなたが身に宿した能力も。その目的も。そして、結果も。
 ウィンター、あなたは失敗してしまいましたね。」

失敗。そう、わたしは失敗した。何がいけなかったのか。
理由は……言い訳は、無数に浮かぶ。それと同じくらいの悔しさも。
そして、涙も。何故泣く必要が?泣きたいのはわたしじゃないはずなのに。
失敗したわたしより、ずっと絶望した人達があの砕けたバリアの下にいる。
それより前にも、沢山。それで、熱狂と焦りに支配され、駆けてきて、この結果を得た。

きいん、と甲高い音と、けたたましい金属音。電子精霊達が音の方を見た。
メタリックな床に、大きな戦斧が落ちていた。

「驚きました。ナイフが限界なのかと思っていましたから。」

無感動に呟く電子精霊の声が頭の上で響いていく。
失敗した後悔はこんなにも、こんなにも大きく、――そこで、気付いて。

「おにいちゃん」「おねえちゃん」

わたしは、顔を上げた。わたしの大事なあの子達がそこにいた。
違う。わたしの大事なあの子達、に似せた。電子精霊の実体がそこにいた。
そしてそれらは、

「ごめんなさい、ウィンター。罪には罰を与えねば。
 理論上、苦痛はあなたの大切なものに与える方が効果的と思われます。」

わたしの目の前で、至極あっさりと。別の電子精霊に、殺されていった。

「だいすきだよ」「なかないで」「ウィンターおにいちゃん」
「いたくないよ」「だいじょうぶ」「がまんできるもん」
「ウィンターおねえちゃん」「がんばれるよ」
「いたいのいたいの、」「とんでけーっ」

みんな、そんな風に、弱りながらも、かすれた声で、告げながら。
何人も、何人も、何人も、何人も。惨たらしく、殺されていった。