RECORD

Eno.285 ウィンター・ザ・リグレットエッジの記録

遠い日の話-1

能力を発現したわたしは、いつもより随分早く帰路につく。
能力は公開を武器に変じる力として、《ザ・リグレットエッジ》と名付けられた。
住宅街を通り過ぎ、おんぼろのレンガの柱を横目に、錆びた鉄門を押し開けて。
わたしはやっと、家につく。長く育った、わたしの家。

「あ!おにいちゃん!」「おかえりなさい!」「おみやげー?」
「おかえり!」「おねえちゃんはやいね」「いいことあった!?」
「ばんごはん頑張ってつくるよ!」

……当時からわたしはそれなりに中性的な見た目をしていたから、
その孤児院の子達はわたしのことをおにいちゃんともおねえちゃんとも呼んでいた。
そのどちらも否定したくなかったから、わたしは両方を名乗っていた。
わたしより上の大人達は全員研究所か、或いは防衛に向かい命を落とし、
この子達を育て、助けられるのはわたししかいなかった。
初めは大変だったけれど、この子達を育てる程に、触れあうほどに、
優しい気持ちと、あたたかい気持ちでいっぱいになっていく。
多分これが世に云うところの愛なんだろう、と当時は思っていたし、
今でもそう思っている。それが二度と宿らないものだとしても。

『わたしの愛しい子達。大切な、大好きな子達。
 わたしは、キミ達を一生忘れない。決して。
 人類を救う礎になるキミ達の命を、必ず語り継ぐ。だから、』
『ごめんなさい。せめて、天国で安らかに過ごしてください』

7人。わたしを慕い、愛を返し、笑顔をくれたあの子達を、わたしは殺した。
苦しまないようにした、と思う。食事に混ぜた睡眠薬のオーバードーズによる死が、
本当に苦しまずに死ねるのかはわたしには……答えられないけれど。

ベッドにもぐりこんだまま、二度と出てこないみんなの死体を見ながら、
その思い出を暗闇に浮かべてため息を吐いた時、
きぃん、と甲高い音がして、わたしの手元には一本のナイフが落ちていた。

こんなものなんだ、と。愛する子達を殺して手に入る力はこの程度なんだ、と。
鉄骨すらひっかかりもなく切れる事に気付くまでは、そう思っていた。
研究所に持ち帰ったそれは、瞬く間に人類の希望などと呼ばれ、
長い自己満足の黙祷の後、わたしの手に託された。

その時わたしは、場の空気という名の酒に、ひどく酔っていた。