RECORD

Eno.34 シャルティオの記録

【0-22 終 また君に会いに行こう】


【0-22 また君に会いに行こう】

  ◇

 時は巡る、季節は巡る。

 秋。シャルティオが王になって2ヶ月は過ぎたか。
 ティファイ聖王国女王ファラウの訪問があった。
 セラン王国の新たな王とも会見した。
 戦争が終わり、北大陸の王もそれなりに入れ替わった。

 壊れかけの心を抱えながら、
 シャルティオはそれでも王として懸命に生きていた。
 そこへ。

「……シャル様」

 以前よりも距離感の遠くなった従者が声を掛けた。
 差し出したのは1枚の手紙。
 そこには『フラウィウス』の文字が。

 フラウィウス。シャルティオは思い出す。
 かつてあの地で、自分は、だれかと。

 特に強い絆を結んだふたりの言葉を、思い出した。

『……約束。ちゃんと生きて、ここに帰ってくるの』
『……絶対、会おうぜ。シャル。絶対の約束、ね』


 ふたりとの約束があるから死ねない。
 また会うと約束したことを、明確に思い出す。

「…………行かなきゃ」


 手紙を従者の手から受け取る。
 それは、剣闘世界フラウィウスへの招待状。
 シャルティオは闘技者として選ばれた。
 望むならば再びかの地へと行けるだろうとの内容。

 身内に裏切られても、
 それでもこの友人たちのことは信じていたい。
 今はもう戦争は終わった。
 勿論、また行くつもりである。

 けれど問題がある。
 国の王たる者がそれなりの期間、
 留守にするのなら困ったことにならないか。
 そう思っていたところで、知らない声がした。

「やぁ〜……アンディルーヴ国王陛下は〜
 ……ご機嫌うるわしゅう〜……?」


 ふわふわした少年の声。
 頭に魔女みたいな帽子を被り淡いブルーのケープを纏い、
 両目を閉じている水色髪の少年が、ふわふわ、宙に浮いていた。

「…………何処から来た」


 キィランが警戒の声を上げて、
 シャルティオを守るように立つ。
 この部屋には、シャルティオとキィラン以外は
 いなかったはずなのに。

 少年はひらひら、
 敵意がないことを示すように両手を振った。

「ボクは敵じゃありません〜……。
 ニンゲン好きでキマグレな神様のひとり〜……
 時と夢のレーヴだよぉ〜……」


「…………かみさま?」


 警戒は解かれない。
 レーヴと名乗った少年が、困ったような顔をした。

「とりあえず用件だけぇ〜……。
 ボクと闇神で組んでる『界境パトロール』はぁ〜……
 異界移動のサポートをしてます〜……」


 彼は語る。

 この世界の流れる時間を調整するから、
 異世界へ行くなら好きに行けと。
 この世界“アンダルシア”の1時間は、フラウィウスでの1日だ。
 己には、そのように調整してしまう力があるのだと。

「……異界への扉……異界へ導くものを闇神が探して〜
 ……場合によってはボクが時を調整する〜……。
 そーいう役割ぃ〜……」


「……それをして、
 レーヴさまに、どんな利点があるの?」


 シャルティオは、信じられない。
 目の前の、神様ですらも。
 そもそも本当に彼は神様なのか?

 レーヴはにこにこ、
 ゆるふわな雰囲気で笑っている。
 閉じられていた片眼のうち左の方が開いた。
 太陽のような黄金がシャルティオを見た。

「……僕はかつて、異界でとても楽しい想いをした。
 でも数日後に元の世界に戻ったら、
 仲良くしてたニンゲンはみんな年老いて死んでた」


「ふたつの世界で流れる時間が違うせいだね。
 そんなのさ、もう嫌じゃないか」


 だから闇神と「界境パトロール」を結成して、
 時折、見回るようにしてるんだよと彼が言う。
 開かれた目は、再び閉じられていた。

「だからまぁ〜……時間のことは気にしないでぇ〜……
 好きにしていーよぉ〜……。
 それだけ伝えに来たレーヴでしたぁ〜……。
 じゃあねぇ〜……」


 笑って、神様の姿が消える。
 最初から、そこにいなかったように。

「…………」


 シャルティオは、フラウィウスへの招待状を見た。
 神様の介入により、問題は解決したようだ。
 それならば。

「……リオ。ナノおねーちゃん。サーニャさん。
 ノアおにーちゃん。ソラ。プラエドさん。レヴンさん」


 かの地で紡いできた絆の名を呟いた。

「…………行くよ、フラウィウスへ」


「私もお供致しますよ、陛下」


「……好きにして」


 従者に素っ気なく返しつつ。

「……でもちょっと留守にする件、
 ギャレットとか……姉上たちにも言わなくちゃ。
 ぼ……俺はその辺りの話をつけに行ってくる。
 後でまた部屋に戻る」

 そのまま、慌ただしく部屋を出ていった。
 扉を閉め、廊下。招待状を抱きしめ、深呼吸。

 僕はこんなに変わってしまったけれど。
 また会えたなら、みんなは前みたいに笑ってくれるかな、
 ちゃんと『お帰り』を言ってくれるかな。

 また会えたその時に、
 笑っていられるかは分からないけれど。
 もしかしたら泣いてしまうかも知れないけれど。

 また、かの地へ行けるのなら、
 約束を果たし、少しでもあの楽しかった日々に戻れるのなら!

 涙の傷痕が消えなくなった顔を上げた。
 廊下の窓から見えた空は、鮮やかな青色をしている。

──行くよ、フラウィウスへ。

 決意を抱きながら、
 シャルティオは王宮の皆と話し合いをする為に、
 廊下を進んだのだった。

【事前日記 シャルティオの回生録 完】
【To be continued……】