RECORD

Eno.282 マキの記録

泥と砂浜と潮風-04

 
せめて自分たちみたいな子どもが減るように
国を変えたい

そう言う子供はスラムで生きてきた。

環境をよくするために、他の世界や知識を学んでから帰る。
そんな夢を持った少年は、やがて知った国の真実に絶望した。
国の中枢に入りこめたけれど、彼の意志で動けるまで年月がかかって
その間、彼は――

解放されるということは次代がいるということ
いま、意志を奪われて国に祀り上げられている子を助けたい。
いつかの、未来、自分みたいな子が増えないように
とりまくものや思いが変わっても、その願いだけは変わらなかった。

「そっか」
「それじゃあ、その子はアヤの斧の
 後ろ側にいてもらわないとだね」

水面下の準備は終わり、後は動くだけ。
その時には駆けつけると、強くなって手伝うと約束した日。
遠い日の約束が、もう少しの場所まで来ている。
その道を作ったのは、彼だ。
頑張って、その甲斐はあったと
いつの間にか着いていた浜から、海のその向こうを見ながら呟く人だ。

今の彼が、ズルと数多の奇跡の上にあるものでも
生きのびて、準備を進めていた。

「不器用だから」
旅の道中で、武器の教えを乞いながら
定住ができない身なら、全ては知れないまま、次の世界で師を探す
それを繰り返して、人によって違う教えを少しずつ齧るだけ

恥ずかしくなった。
情けなくなった。
申し訳なくなった。

いつか彼の世界に行くときには
旅のなかで見てきた政や統治がわかるようになって
いいと思ったこと、使えると思った案を覚えたりして
交渉や、話術。
色んな"ちから"で、支えられるようになっていたかった。

でもこの機を逃すことはできない
チャンスだと言うなら

そんな自分になれるまで、なんて無理な話

それなのに頼りにしている、と
尊敬している、と
信頼を向けられているから

自分への失望に、恐れが加わった
――怖くなった。

何度「すごくない」と話してもそんなことないよ、と微笑む人
守れなければ、傷つくのは彼で、
立ち回りを誤れば彼の後任の子にまで危険が及ぶ
その責任を背負える自信がなかった。

早く"気づいて"
自分は使えないと
作戦の頭数に入れないで
組み込まなければその案は成功するだろうから

ここまで貴方を支えた『約束したわたし』だけでも
きっともう十分、力になったから
中途半端な『今のわたし』は、

――ここで舞台から降りるべきだ
いや、退場しないと

最初は動揺するかもしれない
困るかもしれない
だけど不確定て不安定なわたしが"失敗"する方が困るから

何も言えなくなったわたしに
やっぱり「大丈夫だよ」と言ってくれたけど
言われるほどに、大丈夫じゃなかったときのことが怖くて
だけどそうと説明することもできなくて
くらい海辺に、潮騒の音だけが鳴り続けて

   「………僕はただ、、その……」
   「……ごめんね」


焦っていた心が静まった。
手の震えも止まって、力が抜けたからするりと落ちて。

陽が沈みきって深い色をした水平線は、故郷で見慣れた光景

もう少し見ていたいけど、きっと冷えているから
先に行ってほしい、と

 
ああ、よかった 言えた