RECORD

Eno.34 シャルティオの記録

会話_1


「…………」


 温浴施設から戻ってきた後。
 少年は義足を外し、傷痕を見ていた。

 じくり、痛み、血が出ている。
 軽く膿んでさえいるようだった。

 それを見て。

「……シャル様。今日はもうずっと、
 部屋でお休みになってはどうでしょうか」


 心配そうにキィランが言った。
 失礼しますねと前置いて、
 道具を取り出して手当てしてくれつつ。

 キィランの能力では、
 シャルティオに直接触れると害を及ぼしかねない。
 だから彼は常に手袋を嵌めている。

 滲み出る毒血にガーゼを当てても、
 溶けてボロボロになってしまう。
 血が止まるまでに必要なガーゼは、幾つになるか。

「……今日は約束があるから、
 ダイナーに行くよ」


「……その脚で?」


「キィルが僕を背負ってってよ。
 ……治るまで戦闘は控えておく」


「……帰りもお送りしますからねぇ。
 今、下手に歩いちゃダメですよ。
 悪化しますから」


「…………分かってるさ」


 そのまま大人しく手当てをされている。
 脚の断端が痛い。でもまぁ、よくあることだ。

 ニーズと仲違いしたあの日から、忘れていた悪夢を思い出した。
 仲直りが出来たって、それは消えてくれやしないのだ。

 周りからの叱責がこわいのは。
 反射的に機械的に「ごめんなさい」が出てしまうのは。
 今はもういない人の顔が声が消えてくれない。
 まるで呪いみたいだな、とシャルティオは思った。

 ノアおにーちゃんのくれたオルゴールを探した。
 キィランが出してくれたそれを開けた。

 オルゴール鳴らせばふたつの人形が踊る。
 優しく綺麗な子守唄のような音色に、
 心洗われる気持ちがする。

 それでも、それでも、消えてくれないや。
 振り払う為に訓練所へ行ったのに、
 寝不足が祟って転んで脚を痛めて。

「…………」


 箱を閉めて溜め息をついた。

「……シャル様」


「…………だいじょうぶ」


「…………みんなの前では、笑ってるから」


「そんなン、大丈夫って言えるかボケ」


 キィランの声が厳しくなった。

「とりあえず今は義足は回収しておきますぅ。
 私は今日はずっと部屋におりますのでー?
 用事があればこのキィランにお申し付け下さいませ」


 痛んでいる断端に義足を嵌めないように、
 物理的に遠ざけられた。

「寝られない、かと言って退屈を紛らすものもないなら、
 私が何でもお相手致しますのでね?
 雑貨屋に行けばチェス盤ぐらいならあるでしょうか?
 とりあえず大人しくしていて下さい


「…………はい」


 そうやって話しているうちに、
 最低限の処置は終えたようだ。

「ダイナーに行ったなら、
 白梟様に色々と相談すべきですよ。
 脚のことも、夢と寝不足のことも」


「医者ではない私では、
 出来る処置に限界がありますので〜」