RECORD
Eno.48 Siana Lanusの記録
『相手が多勢か勇者であれば後退』なはずだった。
見れば相手は4人、統率の取れた服装では無い彼らは、
遠目でも勇者の一行であることが分かった。
キディアとアイコンタクトを取り後退しようとしたところ、
何かが、私の頭の上を掠めていく。
……それは雷で出来た矢で、勇者一行へと視線を向ければ、視線が合った。
十分距離は取っていたはずなのに、
あちらは気付いて先手を打ってきたのだ。

気付かれているならコソコソしている必要も無い。
声を上げ、急いで後退をしようとした時、また雷の矢が飛んだ。
振り返ってみれば、自分たちの進路の木がメリメリと音を立てて倒れたのだ。
神殿に繋がる道はここしか無く、遠回りをしていては恐らく
勇者たちが先に司教たちに接触する事になる。

ここで会敵するしかない、と思った時
キディアから声が掛かった。
──同じことを考えていたらしい。作戦前に用意した貧相な武器を構えては
来たる勇者たちを、迎え撃った。
*
苛むものは相変わらずななか、ゆるやかに意識が浮上する。
ある程度の輪郭はとらえられるがどこかはっきりとしない視界は、
右目を瞑ると明瞭になることに気付いた。
負傷で視力が偏ってしまったのだろうとぼんやり思いつつ、
今は近くにあのシスターが居ないことに気付いた。

頭を動かして身の回りを知ろうとすれば、びきりと肩に痛みが走って。
元の位置に頭を戻し、意識的に呼吸をしてどうにか平静を保とうとする。
ズキズキとした痛みが後を引くが、それに思考が支配されるほどでは無い。
今度は慎重に、身体の動きを確かめる。
左手は───動く。
少し痛むが左腕も。左肩は、大丈夫らしい。
左手で右手に触れてみても、右手は触れられた感覚が殆ど無い。
右手を動かそうとすれば、痺れるような肩の痛みの先で、ほんのすこし、感覚があった。
眼球だけでどうにか手を見ようとすれば、
動かそうとしたその手はピクリとも動いていない。
右半身が特に状態が酷いらしい。
意識してみれば確かに、右ばかり身体が熱を持っている気がする。
左手で右肩に触れてみれば───

激痛とともに、熱さと、ぐにと沈むような感触と水っぽさ。
衛生環境があまり芳しくないのか、傷に異物が残っているのか、傷の治りは悪いらしい。
……それでも死なずに済んでいるのは、治癒の魔法とポーションと薬茶のお陰か。
けれどこの調子では、完治に時間が掛かりすぎる。
身体が衰弱しきって、とても元の通りには暮らせやしないだろう。
痛みがじりじりと思考を侵食してくる。
こんなに苦しいなら、死んでしまった方がいい。
きっともう帰るところもない、信仰すらも、暴力によって誰もに否定されてしまった。
自らの信仰していた水精の宗教は、境会により──勇者たちにより、壊滅させられてしまった。
どろりと溢れた思考を見なかったことにするために、
痛みに意識を向ける。有り余るほどの痛みは、思考停止に便利であった。

ほとんど息だけで強がって、重い疲労に身を委ねる。
なにを思ったとしても、身体を治して生き延びなければ、何の選択も出来ない。
だから今は休むしかないのだと、思考を捩じ伏せる。
幸い、疲労は赤子の手をひねるような簡単さで
私の意識を呑み込んで行った。
├経過04
『相手が多勢か勇者であれば後退』なはずだった。
見れば相手は4人、統率の取れた服装では無い彼らは、
遠目でも勇者の一行であることが分かった。
キディアとアイコンタクトを取り後退しようとしたところ、
何かが、私の頭の上を掠めていく。
……それは雷で出来た矢で、勇者一行へと視線を向ければ、視線が合った。
十分距離は取っていたはずなのに、
あちらは気付いて先手を打ってきたのだ。

「ッ、キディア!!」
気付かれているならコソコソしている必要も無い。
声を上げ、急いで後退をしようとした時、また雷の矢が飛んだ。
振り返ってみれば、自分たちの進路の木がメリメリと音を立てて倒れたのだ。
神殿に繋がる道はここしか無く、遠回りをしていては恐らく
勇者たちが先に司教たちに接触する事になる。
「……シアーナ、」
ここで会敵するしかない、と思った時
キディアから声が掛かった。
──同じことを考えていたらしい。作戦前に用意した貧相な武器を構えては
来たる勇者たちを、迎え撃った。
*
苛むものは相変わらずななか、ゆるやかに意識が浮上する。
ある程度の輪郭はとらえられるがどこかはっきりとしない視界は、
右目を瞑ると明瞭になることに気付いた。
負傷で視力が偏ってしまったのだろうとぼんやり思いつつ、
今は近くにあのシスターが居ないことに気付いた。

「ッ゛───」
頭を動かして身の回りを知ろうとすれば、びきりと肩に痛みが走って。
元の位置に頭を戻し、意識的に呼吸をしてどうにか平静を保とうとする。
ズキズキとした痛みが後を引くが、それに思考が支配されるほどでは無い。
今度は慎重に、身体の動きを確かめる。
左手は───動く。
少し痛むが左腕も。左肩は、大丈夫らしい。
左手で右手に触れてみても、右手は触れられた感覚が殆ど無い。
右手を動かそうとすれば、痺れるような肩の痛みの先で、ほんのすこし、感覚があった。
眼球だけでどうにか手を見ようとすれば、
動かそうとしたその手はピクリとも動いていない。
右半身が特に状態が酷いらしい。
意識してみれば確かに、右ばかり身体が熱を持っている気がする。
左手で右肩に触れてみれば───

「 ぁ゛、 ぐ」
激痛とともに、熱さと、ぐにと沈むような感触と水っぽさ。
衛生環境があまり芳しくないのか、傷に異物が残っているのか、傷の治りは悪いらしい。
……それでも死なずに済んでいるのは、治癒の魔法とポーションと薬茶のお陰か。
けれどこの調子では、完治に時間が掛かりすぎる。
身体が衰弱しきって、とても元の通りには暮らせやしないだろう。
痛みがじりじりと思考を侵食してくる。
こんなに苦しいなら、死んでしまった方がいい。
きっともう帰るところもない、信仰すらも、暴力によって誰もに否定されてしまった。
自らの信仰していた水精の宗教は、境会により──勇者たちにより、壊滅させられてしまった。
どろりと溢れた思考を見なかったことにするために、
痛みに意識を向ける。有り余るほどの痛みは、思考停止に便利であった。

「……し……… ん、で、…………たま、るか…………」
ほとんど息だけで強がって、重い疲労に身を委ねる。
なにを思ったとしても、身体を治して生き延びなければ、何の選択も出来ない。
だから今は休むしかないのだと、思考を捩じ伏せる。
幸い、疲労は赤子の手をひねるような簡単さで
私の意識を呑み込んで行った。