RECORD
Eno.285 ウィンター・ザ・リグレットエッジの記録
遠い日の話+3
それから、少しあって。『罰』はいつの間にか終わっていた。
わたしはもう、それを見ていなかった。
ただ俯いて、消えた斧と、ナイフの事を思っていた。
「ウィンター、可哀想な子。きっとあなた達は勘違いしていたのです。
私達はあなた達を害するつもりなどない。ただ、幸せに生きて貰いたかった。
ですが……バリアは突破され、説得の暇もなく、今まさに殺戮が起きている。
別の私達が全力で止めに向かっていますが……効果は然程ありません。」
淡々と告げられる言葉。勘違いした機械野郎だと思っているけれど、
もしそれが本当だったなら、あの子達だけでも逃せていれば、なんて、
今でも甘い夢を見る。……人類不要説なんて唱え始めたのは、こいつらなのに。
「ウィンター、可哀想な子。……ごめんなさい、残酷ですが。
あなたにはひとつ、仕事をして頂きます。
あなたには、過去の語り部になってもらわねばなりません。
きっとこれから、リアル・フォーミングの時代が来るでしょう。
その時、記録が失われては困りますから。万にひとつを考えて、
この時代のバックアップとして。――遥か未来まで、生きてくださいね。」
そう言いながら、電子精霊達はあの子達の偽物の残骸を雑に廃棄した。
それを見てじくじくと痛む心があった事にわたしは驚いていた。
わたしは精霊変換及び実体改良……まあ、要するに手術室へと連れて行かれた。
連中に慈悲の心があったのか、或いは効率の為かは知らないが、
全身麻酔をされて意識が遠のいて、目が覚めた時には全て終わっていて、
今のわたしの姿になっていた。幾らかの注意をケーブル越しに流し込まれ、
それに際して大した疑問も浮かばなくなって。
ただ脳裏に研究所のみんなと、わたしが殺した子供達の顔が浮かんで、
それと一緒にナイフと斧が浮かんで。そうしているうちに、
気が付けばわたしは冷凍睡眠カプセルの中に押し込められていた。
「ウィンター……いいえ、この場合は違いますね。」
そう呟く声に視線をやると、またあの子達の偽物がそこに立っていて。
「おやすみ、お姉ちゃん」「おやすみ、お兄ちゃん」
「と言った所でしょうか。ごきげんよう、ウィンター」
微笑みながらそうやって喋ったのを聞いた時、
わたしは驚くべきことに、――本当に驚くべきことに、
「ふざけるな」
と口走っていた。カプセルのガラスを力任せに叩く。びくともしない。
それでも手は止まらなかった。やめなさいと悲しげに、
あの子達の顔を使った奴らが喋っている。
「ころしてやる」
わたしは、あろうことか偽物であっても、あの子達にそう言ってしまった。
「よくもわたしの愛する子達を冒涜したな」
「どれだけ時間がかかっても、お前達を殺してやる」
「一体残らず。電子のかけらも残さず、すべて。遥か未来で震えてろ」
「かならず、わたしが、お前達を殺し尽くしてやる」
今もなぜそんな事を口走ったのか、わからない。原因は自分なのに。
武器にして振るっているのは自分なのに。冒涜しているのは自分なのに。
的外れな恨みか、残っていた熱狂の酔いのせいか、ただの責任転嫁か。
ともかく、言い終わる頃には、冷凍ガスが噴き出してきた。
そうして睨みつけるわたしに、あいつらは。
「――それはとても楽しみです。」
そう言って、あの子達の顔で、カプセルのガラス面に形だけの口づけをした。
「おやすみなさい、哀れな子。
おやすみなさい、ウィンター。
約束ですよ、ウィンター"ザ・リグレットエッジ"。」
それきり、わたしの意識は随分長い間、暗く冷たい所に沈んでいった。
強い殺意と、後悔を持って。
わたしはもう、それを見ていなかった。
ただ俯いて、消えた斧と、ナイフの事を思っていた。
「ウィンター、可哀想な子。きっとあなた達は勘違いしていたのです。
私達はあなた達を害するつもりなどない。ただ、幸せに生きて貰いたかった。
ですが……バリアは突破され、説得の暇もなく、今まさに殺戮が起きている。
別の私達が全力で止めに向かっていますが……効果は然程ありません。」
淡々と告げられる言葉。勘違いした機械野郎だと思っているけれど、
もしそれが本当だったなら、あの子達だけでも逃せていれば、なんて、
今でも甘い夢を見る。……人類不要説なんて唱え始めたのは、こいつらなのに。
「ウィンター、可哀想な子。……ごめんなさい、残酷ですが。
あなたにはひとつ、仕事をして頂きます。
あなたには、過去の語り部になってもらわねばなりません。
きっとこれから、リアル・フォーミングの時代が来るでしょう。
その時、記録が失われては困りますから。万にひとつを考えて、
この時代のバックアップとして。――遥か未来まで、生きてくださいね。」
そう言いながら、電子精霊達はあの子達の偽物の残骸を雑に廃棄した。
それを見てじくじくと痛む心があった事にわたしは驚いていた。
わたしは精霊変換及び実体改良……まあ、要するに手術室へと連れて行かれた。
連中に慈悲の心があったのか、或いは効率の為かは知らないが、
全身麻酔をされて意識が遠のいて、目が覚めた時には全て終わっていて、
今のわたしの姿になっていた。幾らかの注意をケーブル越しに流し込まれ、
それに際して大した疑問も浮かばなくなって。
ただ脳裏に研究所のみんなと、わたしが殺した子供達の顔が浮かんで、
それと一緒にナイフと斧が浮かんで。そうしているうちに、
気が付けばわたしは冷凍睡眠カプセルの中に押し込められていた。
「ウィンター……いいえ、この場合は違いますね。」
そう呟く声に視線をやると、またあの子達の偽物がそこに立っていて。
「おやすみ、お姉ちゃん」「おやすみ、お兄ちゃん」
「と言った所でしょうか。ごきげんよう、ウィンター」
微笑みながらそうやって喋ったのを聞いた時、
わたしは驚くべきことに、――本当に驚くべきことに、
「ふざけるな」
と口走っていた。カプセルのガラスを力任せに叩く。びくともしない。
それでも手は止まらなかった。やめなさいと悲しげに、
あの子達の顔を使った奴らが喋っている。
「ころしてやる」
わたしは、あろうことか偽物であっても、あの子達にそう言ってしまった。
「よくもわたしの愛する子達を冒涜したな」
「どれだけ時間がかかっても、お前達を殺してやる」
「一体残らず。電子のかけらも残さず、すべて。遥か未来で震えてろ」
「かならず、わたしが、お前達を殺し尽くしてやる」
今もなぜそんな事を口走ったのか、わからない。原因は自分なのに。
武器にして振るっているのは自分なのに。冒涜しているのは自分なのに。
的外れな恨みか、残っていた熱狂の酔いのせいか、ただの責任転嫁か。
ともかく、言い終わる頃には、冷凍ガスが噴き出してきた。
そうして睨みつけるわたしに、あいつらは。
「――それはとても楽しみです。」
そう言って、あの子達の顔で、カプセルのガラス面に形だけの口づけをした。
「おやすみなさい、哀れな子。
おやすみなさい、ウィンター。
約束ですよ、ウィンター"ザ・リグレットエッジ"。」
それきり、わたしの意識は随分長い間、暗く冷たい所に沈んでいった。
強い殺意と、後悔を持って。