RECORD

Eno.414 『幾千』作品№414 AGEHAの記録

記録2「蛹」


「蛹とは、完全変態を行う昆虫類。」




「幼虫から成虫に移る直前に形態を変え、食物をとらずに静止状態となったもの。」



「ガ・ハチのように繭の中にこもるもの、チョウ・カブトムシのように裸のものがある。
 また特に、蚕についていう。蛹虫。」




「蛹の中身がどうなっているか、知っているか?」






次に見たのは母の姿。
そして川の上で、二人で船に乗っていた。
一度目に見た船頭の少女もそこにはいた気がしたけど、ずっと母と話していたから確認はしなかった。

母は学者で、有名な研究室の一員らしい。
幼い自分には何を言っているのかわからないことが多々あって………きっとその時も、難しい話をしていたのかもしれない。

だから、口から出た最初の言葉はきっと、話を逸らそうとしたのだろう。

「この船はどこに行くの?」

「さあ……どこかな?
 お母さんも初めてだからわからないの」

その時の母の顔は、ひどく寂しそうだった。
驚いた、いつも初めてのことや知らないことになると目を輝かせていたから。

「ねえチヅル。
 お母さんは、人って昆虫みたいなものだと思ってるの。」

「元気に動き回って体の基礎を作る幼少期がイモムシ。
 自我の形成と肉体の第二次性徴の青年期がサナギ。」

「じゃあちょうちょは? お母さんみたいに結婚したらなるの?」

「んーん。
 お母さんはね、自分のやりたいことを見つけた人が蝶になるって思ってるの。」

「……私は、あなたに博士みたいになってほしいなと思って、博士と同じ『千』を入れた」

「でも、正直あの人みたいになれるとは思ってないわ。
 博士は強くて賢くて……とってもわがまま。
 あなたとはちょっと、対照的だものね」

それを責めるわけでもなく、悲しむわけでもなく。ただ優しく頬を撫でられる。

「あなたはちょっと……優しすぎるから、博士と足して割ったら丁度いいかも」

大事なものを包むように、その両手で抱きしめられる。

「でも、そうね……
 あの子のように、強くなっては欲しいかな」

「ごめんね、あなたはここまで。
 この先は———まだ来てはダメ」

何を言っているのかわからなかった。
これは、いつも通り。頭のいい人はいつも途中を言わずに結論だけ話すんだ。

体が浮いた次の瞬間には母を見上げていた。
自分は川の中に、母は船の上。
不思議と苦しくはなくて、安らかなまどろみに思考が堕ちていく。

夢の中で寝ちゃうなんて、とても不思議だった。

二回目の夢は、それで終わり。





「蛹は、体を大きく変化させるために幼虫の身体をドロドロに溶かすんだ。」