RECORD

Eno.7  の記録

溜飲

 
自分が酷く冷静ではない自覚はある。
悪意と害意と憎悪を、自棄を伴ってぶつけようなんてのはさしものあたしでさえ阿保だと分かる。
分かっているからこそ縋るみたいに先の話をして、自分を楔につなぎ止めようだなんてするのは
これもまた利己的だと言われて違うとは言い切れない気もしている。
死にたいと思ったことは無い筈だから、生きてもいい理由を述べている。
生きてもいい理由と死にたい理由を並べて生が勝る様にしながらも死ぬべき理由を大事に抱えている。
あたしは何をしているんだ?


アレには。
家族がいるらしい。
抱えるべき国があるらしい。
それは大変な事だ。

 ――では責務と権威のある人間は何をしても許されるのか?



そんな訳ないだろご冗談!
喪われれば損失があるのだから、なんて言うのであれば相応の振舞を身に着けるべきだ。
過失を許容するべきだと、理不尽と被害をそれで有耶無耶にするべきだと?
馬鹿を言うのも大概にしてほしい。
それによって行われる、行われてきた搾取を許容できるのは最早聖人かも怪しい。
愚かだ。
聖人ってただでさえ悪人の苗床にされるんだから。





かの黄金と、あたしが接触するのは――恐らく必然であったと思われる。

「ふふ、それでは貴方に使い潰される前に、 私が欲しがる部下がいたら、攫っても良いのでしょうか。
……いえ、貴方に以前問いかけた際は、構わないと、言っているようなものでしたが」
「……」
「それは、答えることに意義のある質問か?」
「おお、これは失敬。
 そうですね、答える意味はないでしょう」

うちの上司とあの金は事前に接触している。
愉快犯であるあの神父の事だ、何もかもを手のひら通りにする気は無くとも切っ掛けを敢えて作りに行った可能性が高い。
さもなくば欺瞞反旗とか言う護身具・・・をあたしに渡すわけがないのもある。





結局、神父の目論見通りに接触し。
あたしは黄金に至る呪いを受けている。
放っておけばああと一か月も後には、あたしは金塊になっているだろう。
その後の事は考えても仕方がない。
……既に、呪いを受けてから2週間以上が経過していた。これを知る者はあまり多くない。
権能だの魔法だの呪いだのが混ざっていて、『これを対処してくれ』なんて普通言えない。

のは、最初の話。
今となっては大分、大分状況も変わってしまった。



教えて差し上げましょうか

仮に、あたしと貴方で似通うものがあるとしたら

愛とやらを何処までも詰る事と
自分自身を何処までも無価値と断ずる事じゃないですかね

「──真に呪っているものがあるとするのなら、それは自分自身に他ならないでしょうよ」





認めたくはないが、似ているのだ。
だから言論による議論はそう必要なく、互いの生業を然して知る事すらなく理解している。
厭な部分に限って理解してしまっている。

彼はあたしの姓もしらない。
あたしは彼に家族がいるなどしらなかった。

その程度。
同族嫌悪と、同族故の理解で傷を舐め合う事も出来ない話では無かったのかもしれない。



 ……あたしの大切なものに手を出さなければな。



自分が酷く冷静ではない自覚がある。
悪意と害意と憎悪を、自棄を伴ってぶつけようなんてのはさしものあたしでさえ阿保だと分かる。
では何故そんな発想が根付いている?
自分が金塊になるかもしれない不条理を被ったから? ――どうでも良い。
寧ろ、今のアレはあたしを金塊にしたところで意味がない事を理解している。

あたしは、あたしの憎悪で動いている。
友人の事がひとつ。
胤に振りかける罪業がふたつ。


 に傅きみっつ。

あたしは、溜飲の下げ方を知らない。
この煮える腸の収め方が分からなかった。
永年苦しめばいいと思うが、それに充実なんてありはしないのだから。

あたしは、まだ沙汰に迷っていた。