RECORD

Eno.384 久紫 陽咲の記録

死は、死をもたらさない

 
曰く、俺は世界から追放された二人の怪異の生まれ変わりらしい。
『最も有名で恐ろしい妖怪』と『最も正体不明で恐ろしい妖怪』が合わさってできた、
兎に角ただただ恐ろしい怪異らしい。

誰に乞うてもその口から語られることはなく、
この怪異のことを詳しく知るものはみないつか死んでしまうらしい。


───そんな話があるものなのか。
と思わず他人事のように思ってしまった。

「だってこれを教えてくれた奴は、
 今ものうのうと世に憚ってるんだもんなあ」

連闘の最中、ふと昔のことを思いだしては独りごちる。
何度も挑み。勝って負けて、研究を重ねて、今度は連勝を続けて。
──その果てで立つ者に今、相対しようとしている。

前は十文字槍、今は薙刀で。
二度目ともなれば流石に武者震いを起こすこともなく、
比較的冷静に試合までの時間を待つことができた。

(………黒き死、ね)

彼の者は、戦場では『黒き死モルス・アトラ』と。
死をもたらす黒の名で呼ばれていたらしい。
そして、彼もまた……それを見て、語る者を皆なくしたらしい。

他人事とは思えなかった。打ち砕いてやりたかった。
より正確に言えば、そいつと魂まで削れるような闘技をすることで、
自分が死の象徴よりかよっぽど高尚な存在になれるような気がした。

一度勝ってみて思ったことは───意外とこんなもんか、と。
やっぱりどこか冷めたような感情だったが。


歓声にも負けない、実況者の威勢のいい声がここまで響いてくる。
薙刀をひと振りして。いつの間にか変質していた左足を軋ませて、
ただ静かに舞台へと出ていく。

黒い鎧の姿を見れば、やはり身につまされるような感じがする。
他人事とは思えないのはそこまで。そこが一番のピーク。

「大層な肩書に踊らされるのは皆だけじゃないってこった」



黒き死も、牛の首も、
勝手なレッテルばかり乗せられていくものだから。
期待や認識で変質していく。とても恐ろしいものだと勘違いされる。

けれどここでは、死は一方的にもたらすものなんかじゃないってことを、
興行にされた命の奪い合いで示してやることができる。ただの闘士として。

終わればまたお互い黒き死と牛の首を背負わされる、一試合限りの赤裸々な熱のぶつけ合いだ。

「あんたのタマを獲りに来たぜ、色男」


二度目。そうしてようやく、俺は闘技が好きであることを知る。

誰も知らない恐ろしい怪異より、
誰もが知る畏れられる怪異でいたいことを。

牛の首の象徴する死が、ただの比喩であればいいということを。

死は、死をもたらさない。現代に生きる都市伝説はそれぐらいがちょうどいい。