RECORD

Eno.509 クロア=ユレーアイトの記録

たのしくない話

クロアの恐れているものは、「自分が怪物になること」
始まりは姉のように慕っていたニンフが人と結婚したことにある
それだけならよかった。そも、水精霊は惚れやすいもの。本能的に拠り所を求めてしまうものだから。
その後の結婚生活も問題なく、いたって平和な月日が流れた。
そして、悲劇は起こる。
人の寿命は精霊より短く、その体は脆い。そんな当たり前の事実を受け入れることのできなかったニンフは
嘆き、悲しみのあまり、洪水の化身へと転じてしまった。
自我を失い、他の精霊の声すら届かなくなった破壊の渦は、
つよき人間たちによって討伐された。
クロアはそれで人に対する憎しみや怒りを持ったわけではない
ただ、自分もああなってしまうのではないかという未来に恐怖した。
人に恋をすれば怪物になる。何かを失えば怪物になる。
酷いことをすれば怪物になる。弱きを救わなければ怪物になる。
長く生き続けても怪物になる。力を律せなければ怪物になる。
強迫概念にとらわれたクロアは、怪物になる前に消えることを心の奥底で望むようになる。
人の心が見える目を隠すために帽子をかぶり、水の精霊が生きにくい都市で生活をし、
自身の存在を削りながら強力な魔法を使うように調整した。
残り9年、スワンプマンを狩り続けて残り7年、森の妖精の激流を食い止めるために消費して残り5年。
透けていく自身の体を見て、クロアはわずかに安堵した。
あと少しで、私は怪物になることなく、終わることがーーー。