RECORD

Eno.42 ファリスの記録

追想1:一度振り返って

見知った顔に出会えて安心して。
知らない奴からの話にまだまだ知ることが多い。
最近の日々は驚くほどに充実してる。

だからこそ少し頭の中がこんがらがってきてもいるけれど。

少し、昔のことを振り返ろうか。
この闘技島に来る、いや、来れることになった経緯とか、
俺のこととかを。

――

いまこの時この場所でこそ名前だけを名乗っちゃいるが。
俺の本名、というかフルネームはちゃんとある。

ファリス=リィ。
あんま好きな名前じゃあねえが、
魔界貴族、「リィ家」の三男坊としての俺が名乗っていた名前。
ま、そのうちなんとか実家とは縁を切る気でいるけどな。

そんで、
俺が魔界をつい、ふらっと。
衝動的に一度出たあとその外にとどまるきっかけになったのが……

「ファリス」


「どうしたんだい?何か言いたげな顔をして」


サイラス=ストラウド。
俺の家よりも地位が上の魔界貴族家の息子。
と言っても、こいつ自身は魔族じゃあない、人間だ。
過去に多大な功績を挙げた英雄で、その縁で養子に迎えられたとかなんとか。
俺自身もそのあたりはあまり知らない。
サイラス自身も語りたがらないしな。

外世界で「どこかで見た顔だ」と思ったら
あいつの家の当主から「息子を頼みます」なんて
なんでか俺に手紙が届いたもんだから。

さすがに子爵家が侯爵家に逆らうわけにも、ってね。
「家の迷惑になることはできない」なんて思いこんでたもんで
なし崩し的に一緒にいただけだった、最初は。
……今の俺があんときの俺を見たら信じられねえんだろうな、なんて思う。

ともあれ、きっかけは常にこいつ、サイラスの奴だった気がする。
俺が外の世界を深く知ることになったのも、
今回ここに来れることになった発端も。

いつもいつも、こいつだ。
決して原動力じゃあなくて、それを持て余してる時に
敢えて背中を突き飛ばしてくるような奴。
本人が聞いたら「私の事なんだと思ってるのさ!?」とか
わざとらしく怒って見せそうだけどよ。
それはともかく。

「いんや、なんにも」


こいつのことを頼まれたときより距離は友人として縮まったとはいえ
あくまで立場は変わっちゃいないわけで。
外世界の友人を探し回り、街角で噂に耳を立てて、
それでもなんの成果もない焦りは見せられない、そう思っていたから。
俺はテキトーにはぐらかした、気がする。
内心なんも成長出来てねえや、なんて自嘲しつつも。

「……そう」


訝し気な顔をしつつも
その場ではあいつは頷いた。
裏でどこまでわかっているかは俺にはわからない。

「じゃあ丁度良かった、
 少し私の用事に付き合ってくれないかい?」


かと思えばぱっと笑顔になる。

「相変わらずコロッコロ表情変わるなぁお前。
 ま、ヒマしてるしいいけどよ」


了承の言葉を返す。
気もそぞろでいるばかりじゃ何も進まないだろう、
いい気晴らしだと思って。

それが、いまこのときに繋がるやりとりになるなんて一体だれが思っただろうな?
まったく、腹の底で何を考えているか、
サイラスの奴はほんとうにわかったものじゃない。

……だいぶ長くなったし、続きはまた後で振り返るとするか。