RECORD
Eno.285 ウィンター・ザ・リグレットエッジの記録
状況把握の話
再び目が覚めた時、私が見たのは青く澄んだ空と、
その半分近くを覆う巨大な一本の樹の枝葉。
それから、こちらを覗き込む海色の髪のヒトの顔だった。
明らかに青紫に近い肌の色からしてヒトではなかったし、
瞳孔の形は横長だし、跳ね起きて見れば下半身が青いタコだかイカだし。
そこにいたのは"スキュレー"と呼ばれるような、空想上の生き物だ。
「……リアル・フォーミング……?」
口をついて出た言葉に、相手はおお、と声を上げ。
『言葉、通じるのか。オマエ、なんなんだ?遺跡の中にいるし、
アールキングの連中にしちゃ動物っぽくないし、
レヴィアタンの仲間にしちゃ水の中で呼吸出来ないっぽいし……』
などとぶつぶつ呟き出した。
知らない単語も幾つか聞こえたから、それについて聞こうとしたが。
『まさかニンゲン?……なんてな!ありゃとっくに絶滅したんだろ?』
"絶滅"という言葉に、すっかりわたしは頭の中を埋め尽くされて、
それからしばらくの間、困惑する初対面の化物を前にして、
呆然と涙をこぼすこととなった。
――ややあって。やっと落ち着いて、化物……いや、彼の話を
聞けるようになったわたしは、ひとまず自身の素性は隠して多くの事を聞いた。
曰く、わたしがいたのは"海に沈んだ古代遺跡"の中だということ。
彼はスキュレー、――わたしの時代では海棲リアル・フォーミング、
"スキュレノイド"と呼ばれていた実験動物の一群――であるということ。
そして、彼は海中散歩中に急に開いた遺跡の扉の中にいたわたしを、
とりあえず陸……ではないがひとまず水上まで連れてきたということ。
世界のほとんどは海に沈み、今や海と巨大な樹が世界のほぼ全てということ。
わたしがついさっきまで寝かされていた、陸と見紛うほど大きな根。
それを持つ巨大な海上樹は陸上生物の都で、”巨樹魔都アールキング”と呼ばれ、
海底にある巨大生物の死骸に作られた海中生物の都は"海底魔都レヴィアタン"と呼ばれていること。
それから、
"ニンゲン"はずっと昔に絶滅したらしい、ということ。
『らしい』というのは、そんな昔の資料なんてどこにも残ってないし、
ほとんどだーれも興味をもっていないからわからないからだ、ということ。
世界にはもう、リアル・フォーミングしか残っていないということ。
『デンシセーレー』とやらも、聞いた事がないということ。
わたしがいたような"古代遺跡"は海の中のそこらじゅうにあるということ。
わたしが探している"塔"のような大きい遺跡はほとんど見た事ないということ。
そんな風に、いくつも、いくつものことを聞いた。もう涙も出なかった。
そうしてわかった事はと言えば、
わたしにはもう、本当の意味でわかりあえる『ヒト』はいないということ。
アールキングなら、誰であれ寝床と食料と仕事にありつけること。
アールキングの根に巻き込まれた遺跡もあるし、
それを調べるような変わり者も幾らかは存在していること。
海中遺跡を調べたいなら、彼が手伝ってくれるということ。
けど、わたしの殺意を向ける先は、もうないかもしれないということ。
それでも、わたしの身体は頑丈で、当分は生き続けるということ。それくらい。
「色々教えてくれてありがとう。
……しばらく、ひとりにしてくれるかな」
彼にそれだけ呟いて、わたしは高すぎる巨大な樹と、
空を見上げるようにして仰向けに倒れ込んだ。
抜けるような晴天に、波の音と樹のざわめきと。
乾いた笑いと嗚咽が混じった、わたし自身の声だけが聞こえていた。
その半分近くを覆う巨大な一本の樹の枝葉。
それから、こちらを覗き込む海色の髪のヒトの顔だった。
明らかに青紫に近い肌の色からしてヒトではなかったし、
瞳孔の形は横長だし、跳ね起きて見れば下半身が青いタコだかイカだし。
そこにいたのは"スキュレー"と呼ばれるような、空想上の生き物だ。
「……リアル・フォーミング……?」
口をついて出た言葉に、相手はおお、と声を上げ。
『言葉、通じるのか。オマエ、なんなんだ?遺跡の中にいるし、
アールキングの連中にしちゃ動物っぽくないし、
レヴィアタンの仲間にしちゃ水の中で呼吸出来ないっぽいし……』
などとぶつぶつ呟き出した。
知らない単語も幾つか聞こえたから、それについて聞こうとしたが。
『まさかニンゲン?……なんてな!ありゃとっくに絶滅したんだろ?』
"絶滅"という言葉に、すっかりわたしは頭の中を埋め尽くされて、
それからしばらくの間、困惑する初対面の化物を前にして、
呆然と涙をこぼすこととなった。
――ややあって。やっと落ち着いて、化物……いや、彼の話を
聞けるようになったわたしは、ひとまず自身の素性は隠して多くの事を聞いた。
曰く、わたしがいたのは"海に沈んだ古代遺跡"の中だということ。
彼はスキュレー、――わたしの時代では海棲リアル・フォーミング、
"スキュレノイド"と呼ばれていた実験動物の一群――であるということ。
そして、彼は海中散歩中に急に開いた遺跡の扉の中にいたわたしを、
とりあえず陸……ではないがひとまず水上まで連れてきたということ。
世界のほとんどは海に沈み、今や海と巨大な樹が世界のほぼ全てということ。
わたしがついさっきまで寝かされていた、陸と見紛うほど大きな根。
それを持つ巨大な海上樹は陸上生物の都で、”巨樹魔都アールキング”と呼ばれ、
海底にある巨大生物の死骸に作られた海中生物の都は"海底魔都レヴィアタン"と呼ばれていること。
それから、
"ニンゲン"はずっと昔に絶滅したらしい、ということ。
『らしい』というのは、そんな昔の資料なんてどこにも残ってないし、
ほとんどだーれも興味をもっていないからわからないからだ、ということ。
世界にはもう、リアル・フォーミングしか残っていないということ。
『デンシセーレー』とやらも、聞いた事がないということ。
わたしがいたような"古代遺跡"は海の中のそこらじゅうにあるということ。
わたしが探している"塔"のような大きい遺跡はほとんど見た事ないということ。
そんな風に、いくつも、いくつものことを聞いた。もう涙も出なかった。
そうしてわかった事はと言えば、
わたしにはもう、本当の意味でわかりあえる『ヒト』はいないということ。
アールキングなら、誰であれ寝床と食料と仕事にありつけること。
アールキングの根に巻き込まれた遺跡もあるし、
それを調べるような変わり者も幾らかは存在していること。
海中遺跡を調べたいなら、彼が手伝ってくれるということ。
けど、わたしの殺意を向ける先は、もうないかもしれないということ。
それでも、わたしの身体は頑丈で、当分は生き続けるということ。それくらい。
「色々教えてくれてありがとう。
……しばらく、ひとりにしてくれるかな」
彼にそれだけ呟いて、わたしは高すぎる巨大な樹と、
空を見上げるようにして仰向けに倒れ込んだ。
抜けるような晴天に、波の音と樹のざわめきと。
乾いた笑いと嗚咽が混じった、わたし自身の声だけが聞こえていた。