RECORD

Eno.263 ユビアサグラーダの記録

やきつくゆめ

*




いつも僕を背負って帰るのは、大柄なラフガン兄の役割です。


「ったくお前はよお…満足に歩けやしないんだから、毎度毎度壁外訓練にまで着いてくるんじゃねえよ」


そう言われても仕方がないのは分かっています。
でも、手も足も出ない自分が今できるのは、皆の動きを見て学ぶことだけなのです。
なので図々しくもこうして連れて行ってくれと頼むのでした。


「……ま、そのやる気だきゃあいっちょ前なんじゃねえの?何度すっ飛ばされても器用に引っ付いてきてよ、しつこさなら本物の蛇にだって負けねえだろ!」


そうしないと連れて行ってくれないではないですか。当たり前の事に少しだけどムッとして、兄の巨きな右腕に頬を押し付けました。
彼の右腕は岩のようにゴツゴツしていて、耳を寄せると中で溶岩がごうごう言っているのが聞こえました。

でも、自分も団長直々に幻術を学んでいる。じきに立ち上がって走って追いかけるようになるぞ、と言うと。兄は声の調子を落としました。


「あー……、うん。あのさ、お前その……取る時、キツくなかったか?」


取る時。剪定・・のことでしょうか。
それならば心配ありません。痛みはないようにされてたし、傷は綺麗で生活にも支障はありません。
そう言って胸を張ると、兄はまたしばらく黙り込んでから。
遠くを暫し見て、ため息ひとつ。それから。


「…………お前さ、早く立てるようになれよ。そしたら組手の稽古してやる!俺たちはお前の頃からもうやってたからな?早く追いつけるようになんねえと……」


驚きました。いつもバカにしてくる兄がこんなことを言うのは初めてです。
もう嬉しくてたまりません、早く帰って魔法の練習がしたくて、兄を早く早くと急かすと、


「うるせえよもう!わかったわかった…」


そう笑って、訓練帰りの足を早めてくれました。

毛足の長い夕焼けの草原は、まるで船から見る橙の湖のようでした。



*



「……はは、何だよ。せっかく練習したのに、使わねえじゃねえか、組手…」


「…そりゃ、お前のやり方じゃあそうそう使わねえか……まさか忘れてねえよな?…返事ぐらいしろよ…覚えてるってことにしとくから」


「なあ、そんな顔すんなよ。…こんな立場だ、そのうちこうなるって分かってたろ…おいおい泣くなって!…持たねえぞ、そんなんじゃ、これから……」


「…………覚えとけよ、俺たちは誰に殺されても、誰を殺しても、恨みっこなしだからな…………」


「………………兄越えで箔つけて死ねるなら、まあ悪い終わりじゃねえやな…ハハ…」



「………………………………」



「……………………………………、背え伸ばして立ってろよ、リンド」






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48番、烙星のラフガン。

第四王子陣営から西壁管轄長への機密文書輸送阻止の際に会敵。
溶岩の生成限度を待つことは下策と判断、熱源発芽植物の種を用い、完全に根付き吸収されるまで遠隔から退避と切除を妨害。
交戦時間約2時間で死亡を確認。

他、敵方兵士10名を処理。