RECORD

Eno.282 マキの記録

泥と砂浜と潮風-07(終)

 
   「………だって、だって、君の前だから」
   「君の前で、くらいは、……」


泣きたくないんだ、なんて
こんなときでも、わたしの知っている顔で強がるものだから

離れている間に頑張れた理由も
その甲斐あって登りつめても、彼だって一人のひと、
どうしても譲れない意地がある、可愛らしいところのあるひとで。

背伸びの答えに、抱きしめられた腕の中
踵が砂浜につけば、鎖骨のあたりに額をつけて

「強がってるけど、泣き虫なのも」
「かっこつけたがっちゃうことも」
「とっくに知ってて、」
「それも込みで、サミュ君だから」

「弱音も、つらいも、かなしいも」
「アヤ、サミュ君の気持ち、全部知って大事にしたいよ」

「わたしのまえで、くらいは」
「取り繕わなくて、いいんだよ」

「……それとも」

見上げれば、今度はあごの先が触れる。

「泣かせるには……足りなかった?」

あの頃のきみがよくしていた、悪戯っ子の顔で笑えば、
真っ赤になって、しどろもどろになって
――かわいそうにさえなってきてしまった。
そういう意味では泣かせたくないのに。

「――……ごめんね、調子にのっちゃった」

『わるいこ』の顔からふにゃりと力が抜けて、
今日だけでも何度目かの言い訳。

「でも、ほんとうに、さっきまで」
「不安だったし」
「尊敬されるような人じゃない」
「けど」

シャツを掴めば、月の光を受けて指輪がきらめく。

「それでも、アヤの味方で、ひとりにしないって」
「誓ってくれたから」
「嬉しくて、うれしくて、アヤだけ舞い上がるの」
「……はずかしかったから」

今度はわたしがおろおろと、視線を彷徨わせて

「……ごめんなさい」

ただの『わるいこ』ではないので、謝りました。

***

かっこつけちゃうのは治していかないと、とか
でもそれだって彼の国で隙を見せないようにしてきたからだよね、とか

子どもの時の約束も
今交わした誓いも
全部、ほんとうにするために
叶えるために
少しずつでも、一緒に頑張ろう

そんな話をしていたら、くしゃみが一つ。
アヤにはかっこつけるのは似合わないみたい
そう笑って、左手でサミュ君と手を繋いだ
これならどれだけ歩いても指輪は落ちない。

まずは明るくて賑やかな場所で、あたたかいものを食べるため
わたしたちは、歩調を合わせてあるきだす。