RECORD

Eno.42 ファリスの記録

追想2:黒薔薇に暫しの別れを

ええと、なんだったか。
そうそう、この間の続きを振り返るんだった。

同日の昼。
俺はサイラスと連れだって街の服飾店に来ていた。
なんでもあいつ曰く

「そろそろ祖国の外で軍服着てるってのも……ねえ?
 いくら記念で頂いたものとはいえ
 いろいろ問題になりそうだし。

 でも私、自分で服を選ぶといつも周りからぎょっとされちゃってさあ」

ってことで。
そういやあいつ、私服姿でいるときがやたら少ないし
いつも着てるのも魔界の軍服だっけな。
さすがにまずいかも、となんのは理解できる。
正直気づくのが遅ぇとは思う

そうしてしばらくふたりで店の中を見て回って。
いろいろ口を出しつつも決まった服を試着して
くるりと回ってみせたあいつは

「どう!似合うかな」

なんて笑ってみせる。

「おう、いい感じだぜ。色合いも意匠も」

実際青と黒をベースにした色合い自体は軍服と変わっちゃいないが
もう少し華美な衣装にしても映えるもんだ、と。
最近"黒薔薇"なんて異名がついてるのが
理解できるくらいにはこいつも整った容姿ではあるし。
似合わねえ異名だな、とは思うけど

……途中途中でサイラスの奴が
「この文面!!私はものすごい知性を感じるんだよね」とか言って
デスたこ焼き」とか刺繍された上着なんかを持ってくることが
数回あったのでさすがに突っ込まざるを得なかったけども。

あいつの私服のセンスが駄目って自己申告はどうやらマジだったらしい。
つーか、ここ一応お互いの家柄も考えて
そこそこお上品な方々御用達な店のはずなんだけど
どっから見つけ出してくるんだそーいうの

「ありがとう、私も気に入ったしこの服お会計してこようかな。
 ところで、ファリス」


「なんだ?」


「君もそろそろ新しい服が入用じゃないかな。
 特に、君にしては地味で旅にも耐えられるようなやつがね」


……含みのありまくる言い方。
なんとなく意図は理解できる。できるが。

「どういうこった」


「すまないね、私はどうも物言いが婉曲でさ」


あいつはそう肩をすくめ。

「率直に言えば。
 君がだいぶ前から件の友人のことで焦っているんじゃないかって。
 私はそう思っている」


「……お見通しかよ」


「君本当に素直だね」


ふふっと笑う、その顔は
本当に真意が読みづらい。
さすがに焦っていることがバレてないとは思っていなかったさ。
まさか服を見繕ってくれって話から
逃げ道塞いで話を持ち込むと思わなかっただけで。

「私は君が彼らの足跡、
 その手掛かりが得られていないから
 焦っているんだろうと思っている。
 故に、ただやみくもに飛び出せなんて言う気はないよ」


さっき婉曲ですまねえって謝った直後にまた回りくどいなこいつとか
内心は思いつつも。

「それじゃあサイラス。お前は俺になにを提案する気だ?」


生憎俺は「馬鹿」じゃないかもしれないが
愚直なのは確かだ。
相手の真意をそこで決めつけたくはなかった。

「率直に言おうか。
 私が少し前に訪れた闘技島。
 君の目的のため
 あの場所に赴いてみてはどうかと私は思う」


「……フラウィウス、か。
 夢みてーな場所とは聞いてて思ったが」


実際そう思ったのだからしょうがない。
死ぬ気で何度も戦える場所なんてあの当時の俺にはまさしく夢のような話。

「あはは!
 君らしい感想だ」


「もちろんちゃんと意味はあるさ。
 君は私に迷惑をかけてくれないからね、
 それなら君がいっそそこで外に名を挙げ、噂を流す。
 これがいちばん手っ取り早いかなって」


……"迷惑をかけてくれない"、ときたか。

「悪いな。いろいろ」


本当にどこまでお見通しなんだか。

「そんじゃお言葉に甘えて
 いまここでお前に"迷惑かけさせてもらう"さ。
 お前の実家にはうまいこと言っといてくれよ」


俺だって不器用なのは確かでも「馬鹿じゃない」。
旅路に向いていそうな服を直ぐに見繕うことにした。

「任せておいて。
 あのひとたちは私のお願いにはNOが言えないからね」

心底嬉しそうに、サイラスは笑う。
そうして、上の家柄の当主から「頼まれた」あいつ自身に甘えた形じゃあるが
航路や旅程なんかも詳しく教えてもらって。それで、

―――

生まれてはじめての旅に出て、
今俺はここにいる。

ここまで思い出してしみじみと思う。

「本気であいつに頭があがらねえや」

せめて土産でもなにか、買っていこう。
黒薔薇の似合わないウソツキ野郎は、きっといまごろ寂しがっているだろうので。