RECORD

Eno.3 『夜凪の鴉』の記録

鴉が鴉と名乗る前の話③

――そして。


10年の年月が過ぎ、春の季節になった頃。

すっかり己が裏切らない専属執事兼家臣のような扱いとなり。
暗殺業も今仕えている貴族が惜しんであまり任されなくなったこの頃。

自分はというと、その貴族が抱える闇の事業。

――いわば、奴隷の取引を。

ようやく任されるようになり、1年ほど経過していた僕は。
ついに内部密告を影武者経由で彼へと情報を流し込んで。
ついでに、その仕事に関わっている者が、逃げ場がないように裏で工作して。


――ついにその時が、訪れたのであった。


「逃げろ!!領主の狂犬がやってきたぞ!!!」


「くそ!!なんでこの事業がばれてんだ!?」



密告を受け、ここ、貴族の館に
領主直属の騎士団が現れ。
この領の地域では禁止されている奴隷の取り扱いの証拠を見せつけて。

関係者は捕まり、次々と連行される中。

打ち合わせ通り・・・・・・・、森の中へと、
必死に藻掻き逃げていた僕の仕えていた貴族が、自分へと指示を出そうとする。

「おい!!クロヘビ!!あいつを殺せぇ!!」



――そんなの。

「断るね。
 ……初めに言ったろ、僕は、蛇の中でも」


「案外獲物に対してはしつこいくらい、
 狙いを定めて必ず噛むってなぁ!!!」



――そう、対象が恐怖で動けなくなるように。

威勢良く吠えれば、姿も蛇へと魔物・・の姿へと変えて。

「ヒ、ヒィイイ!!バケモノ!!!」



「ぁあ、初めて見るか?この姿。
 ま、あんたにとっては化け物だろうね」

「でも、今はそれでいい。
 あんたが魔族嫌いで助かったよ。恐怖心を煽れるから」



「さぁ、狩りの時間だ」



――久しぶりに使うゴルゴーンの力は、随分と楽しかったけれど。

その後、追いついた騎士団に
大蛇に締め上げられ、恐怖で失神した貴族を引き渡す時には、既に冷静になって。

僕はと言うと。

「いや、こいつぁちげぇ。
 報告に上がってた執事とは種族が違う、逃げられたな。
 ……奴を追え!!そんな遠くには行ってないはずだ!!」



――と、見覚えのある顔の者が、
専属執事とは種族が違うという理由をつけて見逃されて。

その日は、事なきを得たのであった。





「……にしても、あんたが騎士団どころか。
 ここの領主だったとはね、『白鼠』。……いや」



「ギッシュ・フィゼコールド領主」



そう言うと、肩をすくめて。
そう硬くすんな、と首を振って。

「ま、驚いただろ。
 俺が領主だって事、意外と眼帯と髪型や服装を変えれば。
 案外人ってのは気づかないもんだからよ」


「驚いたよ。
 正直斜め上の情報だったからね。
 まさか領主がこんなに自由人だとは思わなかったもん」


「俺も忙しいんだけどな。
 10年前に比べて、ガキだった当初とは違い
 仕事も増えたからこうして話せるのは限られているし」



そう言いながら、今度はいつもの顔ではなく、
領主の顔として左目の方に眼帯をすると、
アメジストを思わせる目をこちらへと向ける。

「そんで?
 シュルには金を用意はするが、こっちの情報の方が
 一番褒美ではあるだろうな?」




――そう、一呼吸置き、ニィ、と笑みを見せて。


「近々、ここから少し近い世界の場所で。
 闘技の世界『フラウィウス』にて、
 スポーツが開催されるシーズンになる」


「……フラウィウス?初めて聞いたな。
 ってか、なんで俺の名前を……!?」


「意外と妖精の情報網、あだになんねぇぞ~~」

「……まあ、俺が妖精の通り道として
 利用し利用されてる関係なだけだ。
 ヴィンテルからちょっとだけ聞いてな、お前の友達の事」


「本題はこっから。
 その場所のスポーツは、ただのスポーツじゃない。
 『モノマキア』っていう、剣や鈍器等を揮い、命がけで戦う試合だ」



――そうして、僕は。
その世界の事について、色々情報を貰った。

試合は致命傷を負っても、巻き戻る事。
その時の記憶はちゃんと残っておりトラウマになるリスクになることも。
自分たち魔族のような者は、その欠点よりも、
無限に戦える環境に利点を感じ、酔う様に入り浸る事が多い事も。

どれもギッシュが体験したわけではないが、
事実である事を複数の噂から確認していることも。

――その世界になら、噂を聞きつけた相手も、共に来る可能性もある事も。

まさにそれは、自分にとっては、最大の報酬であった。

「……へえ、悪くないな。
 丁度、腕をまた磨こうと思ってたんだ」


「それに、こんなにうれしい報酬、君ぐらいだよ、ギッシュ」


「そいつぁ、良かった。
 ヴィンテルには場所を教えておいたから、
 いつでも飛べるぜ、シュル」


「本当に何から何まで助かり過ぎない???
 そんな僕君に大したことしてないけど???」


「……領主として、尻尾を掴めねぇ奴を、
 掴むどころか丸裸にして。
 民が貧しくないようにこっそり支援金を使って
 孤児たちに働く場所を用意したり。
 ……あんたにゃぁ、感謝しきれないからな」


「知ってるか?一連の事件に関わってる奴で、
 執事の兄ちゃんにだけは。
 見逃してくれ、って訴えが多いってことをよ」


「……知ってるさ。
 だからこそ、逃げ道を用意してくれてるんだろ?」


「そういうこった。
 ……何年後になるかは分からねぇが。
 またこの世界に、遊びに来てくれよな」


「ふふ、そうするよ。
 じゃあまたね、若領主さん」




――そうして。

僕は旅支度を整えて。
ギッシュとヴィンテルと別れの挨拶をした後に。

この、フラウィウスへと飛び、今こうして。
再び会えたのは、運命だったのかもしれないね。



――な、ファリス。君もそう思うだろ?