RECORD

Eno.263 ユビアサグラーダの記録

またたくゆめ

*




動けるようになったあとも、早々に皆とと同じようになれる訳ではありませんでした。


「──10点!100点中10点ですよ53番!お分かりですね?やり直しですよッ!!!!


大仰に嘆いてみせるのは、教官のホルベジオさんです。
この人は常にこんな調子なので、こちらもへこめばいいのか、こんにゃろうと思うべきなのかイマイチ掴みづらい人です。
でも、お陰で折れずに鍛錬を続けられます──僕は、どうも騎士としての能力に不足があるようでした。


「君は観察眼はある。身体機能だって少なからず磨かれている……なのにッ!!どうしてそう及び腰なのです!!!動きが避け、受け、ついでに避けしかないッッッ!!!!」


振る舞いはともかく、言っていることは最もです。
ラフガン兄との組手の時もそうでしたが……こうして実際に人と対面してみると、どうしても思ってしまうのです。
『できない』と。
皆と同じように手足を動かして、相手を打ち倒すことなどできないと。
持病のように、確信が初めからありました。

教官はフーッと息を整え、こちらを渋面で見遣ります。


「……君は、満足に動けぬ期間が長くありました。オマケに今の状態だって、君本来の生態としては"正しくありません"。故に、『自分はまともに戦うなどできない』と無意識で思い込んでいるのでしょうがあ〜〜〜〜〜!!!!!!!」


首をすくめた。この人、落ち着いたようで全然落ち着いていない。


「『騎士』は!!それでは立ち行かないッ!!
我々は時に正々堂々立ち会い!時に身を呈して主を守る!逃げているばかりではその役目は叶わな〜〜〜〜い!!!!!」


妙な声音で隠されていても、その指摘は身に刺さります。
僕の夢見た騎士は、常に堂々としていて、主の為に命すら擲つ存在です。それなのに、体は、本能は言うことを聞きません。自ら勝ち取った軽く自在に動くはずの肢体は、いつまでもいつまでも幼いあの頃の自分に囚われているようでした。

もう、日が落ちてしばらく経ちます。今日の鍛錬はもう終わりにしないと、僕だけでなく教官も夕食に間に合いません。
無理を言って付き合ってもらって成果がないのが悔しくって、また地面に水滴が落ちていきます。
……この頃の僕はこれが嫌で嫌で仕方ありませんでした。みっともないし、それで誰かに気を使われるのも心底辛かったのです。

顔を隠すように練習着のフードを深く被って、ありがとうございました、と礼をします。また、雫が落ちていくのを感じながら、振り向いて駆け出そうとして。


「時に──君は、騎士にとって肝要なのは何と心がけていますか?堂々とした態度?何者も恐れない勇気?それとも……主のためなら何者をも成せる覚悟・・・・・・・・・・・・・・・・・?」


それは。
それは、どういう意味でしょうか。と、愚直な疑問が口をつきました。


「──これから君は、己の『できない』と死ぬ迄付き合うことになりましょう。 君が悪いわけではない、しかし逃れられぬ宿痾です。
故にどうか……ここはひとつ、『できる』を極めてみては」


混乱する頭に、微か思い当たる記憶。
騎士団の中にありながら、主の影となり、手足となり、国の暗部から貴人を守る者たちがいると。
その存在は秘匿されており、同じ近衛騎士でも知るは少ないと────


「私の同期に、1人そこに就いている者がいます。
……君の憧れる騎士の姿では無いかもしれません。しかし、これはふつうの騎士ではできない、大切な仕事です」


君が望むなら、紹介しましょう。
混乱し固まる僕を置いて、彼は歩き出そうとします。
その背をずっと、ずっと言葉も出せずに見つめていました。




*





『──は』



『──は────ははは!!!はははは!!!!!聞こえますか53番ッ!!よくもやってくれましたね!!!!』


『驚くことはありませんッ!!私はこう・・ですから、遠隔通話の手段は整えておりますとも!!!しかし────』


『──この上昇、いつまで続けさせるおつもりかな?このままでは空の蓋を超えて、天の国にでも届かん勢いですが……否、そもそもそれが目的でしたね!!!!はははは!!!!!』


『──この際だから聞いておきましょう。リンドロンド君、君は、あのまま無理やり理想の騎士になりたかったのですか?それとも、今の姿を良しとしているのでしょうか?』


『…子供の夢をそのままに育てることは難しいと、せめて選択肢だけでも増やしたいと、そう思っていたのですがねえ……今となっては、望─道を──すればと───む』


『───はは!─通信が─じな──!!これは─めて─!!では続─はあの世─────────』


『──────────』



『─────────よく出来ました、100点をあげま────────』



『』





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77番、輝蹟のホルベジオ。

第5王子の外遊公務の護衛任務中、当該陣営の兵士が敵陣営についた北壁駐留軍と衝突。
当該騎士の情報のない中、上空を高速で飛行しながらの魔力弾の投下により自陣の8割が死傷。自分も負傷しつつも、機関部への幻術の行使を敢行、20回目の接続にて防壁を突破。、
交戦時間約7時間で聖痕の接続が消失、死亡とみなす。

味方兵士150名が死傷。上空からの落下死はうち70名。