RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

EP20

「スッフェ〜ン ♡」
「ウワッ」

彼女の声が聞こえれば飛んでスフェーンは後ろへ下がるか。
レピドライト役の女の声。彼女の名前はダリヤと言った。

「どしたどしたぁ?!何だよそのウワッはよ、いちいち毎度嫌がる声出さなくてもいいじゃねえか、あたしも傷ついちゃうわ〜」
「毎度言ってるんですけどあんたキャラと本来の性格のギャップが激しすぎるんですよ」

だから撮影終わりに見ると落差でビビってしまうとか、なんとか。
スフェーンはもだもだと言い訳をしている。ダリヤはそれを見てあっけらかんと笑うのだが。

「そんだけあたしが演技上手だと褒めてるなさては」
「あんた本当ポジティブですねえ?!」

渾身のドヤ顔で堂々言い放つのだから頭が痛い。
スフェーンは何というか、この人のノリに乗り切れないところがある。
昔からそう。昔からそうなのになれない。
なれないのに嫌いではないあたり、まあそこまで嫌ってはないのは事実なんだけど。
はい、とコップに入った冷たいお茶を渡してきたのに、ありがとうございますと素直に受け取って。

「……」
「おっ何々なんか聞きたい顔してるねいいよあたしが答え」
「まだ何も言って無いですけど……??」

事実として質問はあるので咳払い一つ。

「…ダリヤはそれだけ、演技と自分が乖離してて疲れないんですか?」

その質問を聞けば。
彼女は紫の瞳を大きく見開いた後に、あっはははと笑い出した。
腹を抱えるまででは無いが。そうやって笑う様子に、何ですかその…それは、と困惑していたところ。

「何言ってんの、あたしは平気平気」

「大丈夫」

「問題ねえよ」

その声は透き通っている。

冬の日の夜空のように。



「だから心配したのに」