RECORD
Eno.48 Siana Lanusの記録
├経過05
*
意識が無いまま1週間、朦朧としたまま1週間。
それからベッドから動けないまま時間が経過し、
身体を起こす事が出来るようになった時には、
もう1ヶ月もの時間が経っていた。
容態はまだ安定せず、時に急な悪化をしながらも、
長い目で見れば快復しながら、時間を費やしていた。
──私が助けられ、世話をされている此処は境会であった。
境会、すなわち創壁神信仰者の教会で、
壁を、この世界を維持し護るために不変を望む、そんな者たち。
彼らこそが世界宗教であり、成長の為に変化を望む私たちとは対立する宗教の者たちだ。
ここはある小村にある境会のようで、
人員もシスターと神父の二人しか居ないぐらいの小規模な境会だ。
私を彼らが助けたのは、その信条のためだろう。
人を、命を、護る事こそが彼らの使命である。
私の死体がかの現場に残っていない以上、
自分は境会に指名手配でもされてそうなものだが
少なくとも私が何者かは、彼らは知らないらしい。

ここが境会である事に気付いた時から、
吐き気にもよく似た黒い気持ちが
ずっと腹の底でとぐろを巻いていた。
私たち──清水の大精霊ル・ティアーの思想を信仰する者にとって、
停滞を望む境会は、創壁神の信仰者は、敵であった。
変化せねば淀む、変化せねば人々は思考停止する。
それを破壊しなければ人は成長しないのだと、ル・ティアーは言った。
故に私たちは───破壊を企てた。
魔物を使い、境会の要職を殺し、人々の安全を脅かし、
境会へ依存した現状を人々に疑問視させ、
自らの足で歩む力を持たせようとした。
──結果。私たちは、勇者によって壊滅させられた。
……そして私だけ生き延びてしまって、今に至る。
敵を嘲笑って利用出来る性格であれば、どれだけ良かったか。
境会から施しを受けている現状に、
芯から善人だろう彼らを騙しているような罪悪感に、
そして、自分たちを殲滅しようとした勇者達へのどす黒い嫌悪感に。
余計な思考ばかりしてしまうが、
自由に動くこともままならない今、それらは精神を参らせるだけだと分かっていた。
痛みに意識を逸らして、思考を放棄せざるを得ない時間が続いて、
精神的にも芳しくない時間がしばらく続くだろうことが予見出来てしまっていた。


左手を差し出しては身体を起こしてもらい、
ゆっくり息を吐いては視線をシスターから逸らす。
じんわり滲んでくる胸内の泥からも、目を離すように口を開いた。


間の抜けた様子の後に、軽く笑うような声。
子どもを宥めるようにそのひとは、私の頭をそっと撫でた。
……それを嫌だと思わないほどにその手に助けられ過ぎてしまった事に、
胸の重しが更に重みを増すのを、つとめて無視をした。



ひょうきんなシスターの振る舞いに少し気持ちが落ち着いてしまうのには素直に従って、
ふ、と視線をシスターに戻しては、逡巡。




少し睨めば地雷を踏んだとでも思ったか、シスター……フルテスは
ピャッと飛び上がってはお茶だけカップに注いでそそくさと退散していく。
毒気が抜かれたな、と安堵を覚えることが
いいのか悪いのか、どうも分からないまま漠然と
サイドテーブルに置かれたカップを手にとって、ゆっくりとお茶を飲むのだった。
意識が無いまま1週間、朦朧としたまま1週間。
それからベッドから動けないまま時間が経過し、
身体を起こす事が出来るようになった時には、
もう1ヶ月もの時間が経っていた。
容態はまだ安定せず、時に急な悪化をしながらも、
長い目で見れば快復しながら、時間を費やしていた。
──私が助けられ、世話をされている此処は境会であった。
境会、すなわち創壁神信仰者の教会で、
壁を、この世界を維持し護るために不変を望む、そんな者たち。
彼らこそが世界宗教であり、成長の為に変化を望む私たちとは対立する宗教の者たちだ。
ここはある小村にある境会のようで、
人員もシスターと神父の二人しか居ないぐらいの小規模な境会だ。
私を彼らが助けたのは、その信条のためだろう。
人を、命を、護る事こそが彼らの使命である。
私の死体がかの現場に残っていない以上、
自分は境会に指名手配でもされてそうなものだが
少なくとも私が何者かは、彼らは知らないらしい。

「…………はぁ」
ここが境会である事に気付いた時から、
吐き気にもよく似た黒い気持ちが
ずっと腹の底でとぐろを巻いていた。
私たち──清水の大精霊ル・ティアーの思想を信仰する者にとって、
停滞を望む境会は、創壁神の信仰者は、敵であった。
変化せねば淀む、変化せねば人々は思考停止する。
それを破壊しなければ人は成長しないのだと、ル・ティアーは言った。
故に私たちは───破壊を企てた。
魔物を使い、境会の要職を殺し、人々の安全を脅かし、
境会へ依存した現状を人々に疑問視させ、
自らの足で歩む力を持たせようとした。
──結果。私たちは、勇者によって壊滅させられた。
……そして私だけ生き延びてしまって、今に至る。
敵を嘲笑って利用出来る性格であれば、どれだけ良かったか。
境会から施しを受けている現状に、
芯から善人だろう彼らを騙しているような罪悪感に、
そして、自分たちを殲滅しようとした勇者達へのどす黒い嫌悪感に。
余計な思考ばかりしてしまうが、
自由に動くこともままならない今、それらは精神を参らせるだけだと分かっていた。
痛みに意識を逸らして、思考を放棄せざるを得ない時間が続いて、
精神的にも芳しくない時間がしばらく続くだろうことが予見出来てしまっていた。

「どうしたんですか?溜息吐いて。
どこか調子が悪かったり……?」

「……まだマシ、な方よ、今は」
左手を差し出しては身体を起こしてもらい、
ゆっくり息を吐いては視線をシスターから逸らす。
じんわり滲んでくる胸内の泥からも、目を離すように口を開いた。

「……いつまでも、あたしに着いてなくて、いいのよ」

「んえ?」
間の抜けた様子の後に、軽く笑うような声。
子どもを宥めるようにそのひとは、私の頭をそっと撫でた。
……それを嫌だと思わないほどにその手に助けられ過ぎてしまった事に、
胸の重しが更に重みを増すのを、つとめて無視をした。

「大丈夫ですよ〜、
ほら、あなたの世話するって口実で
お仕事サボれちゃうんで〜!」

「………………それ、
今度、神父にチクろう、かしら」

「そんなご無体な!!わたくしの癒し時間が〜!!」
ひょうきんなシスターの振る舞いに少し気持ちが落ち着いてしまうのには素直に従って、
ふ、と視線をシスターに戻しては、逡巡。

「…………あたしは、シアーナよ。あんたは?」

「ふえっ?!
…………え、えっと、お名前?!
わ、わたくしはフルテスです!よろしくお願いしますね、シアーナちゃん!」

「…………多分あたしあんたと同い歳ぐらいだけど…………」

「えっ?!こんなちっちゃ……、ンンッッ
そ、それじゃ、スープ飲みますよね!作って来るんでお茶飲みながらちょっと待って下さいね〜!」
少し睨めば地雷を踏んだとでも思ったか、シスター……フルテスは
ピャッと飛び上がってはお茶だけカップに注いでそそくさと退散していく。
毒気が抜かれたな、と安堵を覚えることが
いいのか悪いのか、どうも分からないまま漠然と
サイドテーブルに置かれたカップを手にとって、ゆっくりとお茶を飲むのだった。