RECORD

Eno.68 Daliusの記録

怪物の名前

おれには昔、名前があった。
夜に住まう異形の怪物の名が。

Daliusいまの名前は吸血鬼の兄弟がくれたもので、こちらも長らく使っているのだけれど、
もっともっとむかしの話。怪物には人々の間で語られる名があった。

もう、思い出すことのできないそれ。
あの頃のおれは言語ことばがあまり得意ではなくって。
人間かれらが著すおれの形。人間かれらが話すおれのありかた。

どんなリズムで、音で、形で呼ばれていたのか。
遠くなってしまった、ずっと。
関わりをひとつ失ってしまった。

寂しさの中に置いてきてしまった。

いまの名前もすき。みんなが呼んでくれる。
いろんな呼び方をしてくれる。
いまのおれは紛れもなくDaliusで、それ以上でも以下でもない。
ただ、あの頃の自分も一緒に連れて行きたくて。
それだけ。

きっと昔あったあの都市まちも、いまとなっては影も形もなくって。
知らない信仰を持った知らない民族が、知らない言語を話しながら、
そこにあった土地の名を知らないで暮らしている。

おれだけが。
おれだけが覚えていることができたはずの。



「〜♪」
小さな歌。

「……おきなとり、よるのとり」
「つき…の………」

「…………」



    月下の怪物







なんだったかな。