RECORD

Eno.3 『夜凪の鴉』の記録

海星のダイスは振られている

「……そういえば、もうすぐルイの誕生日だっけ、
 偽称してなければ」



――僕はここに来る前、50年ほど前の出来事の事を思い出しながら、ふと自室で思考に耽る。

こうして、毎年僕が関わった誰かの誕生日の度に少しだけ、縁のある物を手入れしたり。
ちょっとした菓子やら、花を一緒に祝うつもりで買ったりしている。




――そう、それは、祭典が終わり、人気の少なくなった会場で。

僕は祭典で帰り支度をしている彼に、とある提案をしに話しかけに来たのだった。
彼とは、会場で成り行きで知り合い、コンビを組み『海星のダイス』として、試合に挑み祭りを楽しんだ仲で。
すぐに賭け事をしたがるし、試合をめちゃくちゃにしたがるし。
酒にも弱いのに酒を溺れるように飲みたがるし。
碌でもない兄さんなのには間違いないけれど、どこかそのひねくれ方とか。態度とか。
まるでファリスと出会った時の僕みたいに見えて、ほっとけなくて。

だからこそ、素直に提案を受け入れてくれるかは、分からなかったから。


「ねぇ、ルイ。
 君が良ければ、君の世界まで送っていこうか」



――離れるのは、寂しいだろ、なんて言葉はしなかったけれど。



奇妙な縁が僕にとっても、きっと彼にとっても楽しかった事には違いが無いから。
その提案をした彼は、少し目を見開いたあと、皮肉を言うように僕の提案を受け入れて。



そして、彼の世界へと共に戻った後。
本題の、その縁が続くことを願った提案を彼にする。

「……ねえ、ルイ。
 この先、また会う事があれば。
 その時は、君の行く先をまた共にしてもいいかな」





――その、言葉には。

顔を逸らされて表情は読めなかったけれど。
そんな万が一の話がもしもあったらな、とは言われて。

その言葉に少し嬉しくなりつつも、期待しておくよ、とあっさりと返して。
またね、の言葉を最後に、彼とはお別れをしたのだった。




「去年まではルイから貰った短剣を手入れする日だったけど、
 今年はその武器も預けているからなぁ」



――そして、時間は少し過ぎ先日。
誕生日に向けてどうしようか、と悩んでいたところ。

彼が好きだった酒を思い出して。
雑貨屋に行き例の酒を購入して。

今、こうして自室で一人酒をしているのであった。

「……ファリスと一緒に飲むことも考えたけどね。
 やっぱり、こうして一人で飲むことで、
 君と一対一で飲んでるような気持ちになれるからさ」




――その彼が、好きな酒とは。

さくらんぼから造られる蒸留酒、キルシュ酒。

酒好きの彼らしく、アルコールが強めなそれは。
強いアルコールを思わせる皮肉屋な彼の行動とは裏腹に、どこか他人を頼りたがってる様な、そんな優しい香りが。
おもわず、彼によく似ている酒だ、と飲みながら笑みがこぼれてしまう。

「本当、よく似ているよ、君とは」



そんな事を言われれば、すぐにでも皮肉の言葉が聞こえてきそうなくらい。
あの時間は、僕にとっては大切な、何十年、何百年、何千年経とうとも。
忘れたくない日々だったのには、違いないから。

「……お誕生日、おめでと、ルイ。
 ファリスとヴァイオレットにも出会えたし、
 今度は、君もまた会いに行くから、覚悟しとけよ」




そう、皮肉屋な彼に負けないように言い切って。
今晩は、いつぞやで、酒を共に飲み干し、酔い潰れた時のように。

酒に入り浸るように、酒瓶を空にするのであった。