RECORD
Eno.122 花貫 渓の記録
Servant
異能の制御を始めてから1年
無意識でも使わない状態を維持できるまでに1年掛かった。
薄茶色の髪の彼は、その期間が長いとも短いとも言わなかった。
ただひとつだけ
「これで、君は道を選べる。」
そう言った。
元に戻ることも選べるのだと。
……。
制御できるようになるまでに、色々な話を聞いた。
彼から、あるいは他のカウンセラーからも。
今までは異能を誰にも知られないように隠すしかなかったこと。
今までは『異能課』に把握されれば、その監視下でしか生活できなかったこと。
けれど今は、一定の条件を満たせばある程度の自由があること。
……それを実現するのに、彼を含めた多数の尽力があったこと。
往々にして、希望を語り続ける人たちは努力家だ。
少なくとも自分自身は、そういうものだと認識している。
ただ生きることさえ苦労する世界で、希望を叶えるという枷を負って生きている。
そうでなくとも、人間は苦心して生きている。
生きるという行為に掛かるコストは決して低くない上に、真っ当に社会性を保っていくならば更に面倒も負わなくてはいけない。
周りの人間は素晴らしい人たちだ。
そしてつまり、自分はそうではない。
皆、生きるのに苦労している。
そして自分は恐らくそうではない。
これが歪んだ逆説だということを、自分はすぐに忘れる。
自分は、自分が優れていると思っていない。
自分よりも誰かが優れていると思っているから、たとえば自分が、誰かに仕えてもらうというのは考えられない。
フィデリアと話をした時、探しているという主に関して、自分は一切考慮に入らなかった。
自分は、他人の方がもっと苦労していると思っている。
自分の苦労と他人の苦労が背反でない事実を知っていながら、その事実を簡単に受け入れられない。
カナリアはごく自然に、その事実を認めていながら。
今更振り返るまでもなく、自分は自分の価値を低く見積もっていることを知っている。
実態がどうかはともかく、自分では低く勘定していることを理解している。
……愚かだとは思うけれど、後悔はない。
恐らくは、何者かになりたかったのだろう。
眩しい人の、恩ある人の、そのためになる何かをしたいと思った覚えがある。
だから彼と同じように、同じような”尽力”をすることを選んだ。
無意識でも使わない状態を維持できるまでに1年掛かった。
薄茶色の髪の彼は、その期間が長いとも短いとも言わなかった。
ただひとつだけ
「これで、君は道を選べる。」
そう言った。
元に戻ることも選べるのだと。
……。
制御できるようになるまでに、色々な話を聞いた。
彼から、あるいは他のカウンセラーからも。
今までは異能を誰にも知られないように隠すしかなかったこと。
今までは『異能課』に把握されれば、その監視下でしか生活できなかったこと。
けれど今は、一定の条件を満たせばある程度の自由があること。
……それを実現するのに、彼を含めた多数の尽力があったこと。
往々にして、希望を語り続ける人たちは努力家だ。
少なくとも自分自身は、そういうものだと認識している。
ただ生きることさえ苦労する世界で、希望を叶えるという枷を負って生きている。
そうでなくとも、人間は苦心して生きている。
生きるという行為に掛かるコストは決して低くない上に、真っ当に社会性を保っていくならば更に面倒も負わなくてはいけない。
周りの人間は素晴らしい人たちだ。
そしてつまり、自分はそうではない。
皆、生きるのに苦労している。
そして自分は恐らくそうではない。
これが歪んだ逆説だということを、自分はすぐに忘れる。
自分は、自分が優れていると思っていない。
自分よりも誰かが優れていると思っているから、たとえば自分が、誰かに仕えてもらうというのは考えられない。
フィデリアと話をした時、探しているという主に関して、自分は一切考慮に入らなかった。
自分は、他人の方がもっと苦労していると思っている。
自分の苦労と他人の苦労が背反でない事実を知っていながら、その事実を簡単に受け入れられない。
カナリアはごく自然に、その事実を認めていながら。
今更振り返るまでもなく、自分は自分の価値を低く見積もっていることを知っている。
実態がどうかはともかく、自分では低く勘定していることを理解している。
……愚かだとは思うけれど、後悔はない。
恐らくは、何者かになりたかったのだろう。
眩しい人の、恩ある人の、そのためになる何かをしたいと思った覚えがある。
だから彼と同じように、同じような”尽力”をすることを選んだ。